秘密情報の定義について(書籍:ビジネス契約書の基礎知識と実務)

今般は、花野信子氏著作の「ビジネス契約書の基礎知識と実務」という本を図書館で見つけて読んでみました。

この手の入門書は、現在の法務職に5年前に就いた直後にたくさん読みましたので、今更読む必要はないような気もしますが、何か一つでも得るものがあればと思い、冬休み用として他にもたくさん借りてきました。

本書は、この手の本の例に漏れず、「契約とは」から始まり、契約書の基礎実務知識、契約書の一般条項の解説、売買契約書、製造委託契約書等の各種契約書を用いた解説、という体裁になっています。

早速ですが、本書で個人的に参考になった個所を、以下に書き留めておこうと思います。
下記は、秘密保持条項に関する解説部分で、要は「秘密情報」の定義はしっかり定めなさい、という箇所です。


<以下、抜粋>

「相手方から開示された情報」という定義で、全ての情報がカバーできるように思いがちであるが、誤りである。たとえば、「仕入価格」がその一例である。「仕入価格とは、相手方から示されたものではなく、双方の合意で成立し、双方が保有するものになったもの」という判例があり(東京東判平成16・9・29裁判所HP)、この場合、メーカー側が小売業に仕入価格を秘匿してほしいと思っても、仕入価格情報は、「相手方から開示された情報」にあたらず、秘密保持契約の対象とならないことになる。よって、仕入価格を第三者に開示されたくない場合、「仕入価格は秘密情報とする」と明確に定義する必要がある。

<抜粋終わり>


上記の判例は知りませんでしたね。

秘密情報の定義の問題については、以前、他の記事にも書きましたが、秘密情報の該当範囲を不当に狭めたくないけど、でも、どうとでも解釈出来る文言は避けたい、という綱引きにより、どうしても曖昧な表現とならざるを得ないと思いますが、上記の「仕入価格」のように、製品のMSDS(=Material Safety Data Sheet)や○年○月○日に契約の相手方に提供した製品のサンプル品のように、どうしてもこれだけは秘密保持して貰いたい、という具体的な物があれば、単純に、漠然とした秘密情報の定義しかない自社の雛形基本契約書やNDAを締結して満足するのではなく、しっかりと秘密情報の定義を考えて加筆・修正する一手間を惜しまないで対応したいものですね。

「契約書」に対して無頓着な営業担当者も多々いますので、法務担当としては、当然のことではありますが、契約書の締結の際には、どのような経緯・目的があり、取り交わすのかを必ずヒアリングし、この文面で当該目的が達成可能かをよく検討してから、締結を進めるようにしたいものです。

ビジネス契約書の基本知識と実務ビジネス契約書の基本知識と実務
(2008/03)
花野 信子

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<目次>
第1章 ビジネス契約とは(契約とは;ビジネス契約の特徴、留意点)
第2章 ビジネス契約書の基本実務(体裁・形式;契約書本文のつくり方
    -ひな形のない契約書のつくり方)
第3章 具体的検討例(各種契約の主なチェックポイント;モデル契約)
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書籍:ビジュアル対訳 基礎からわかる中国語契約書

今般は、「ビジュアル対訳 基礎からわかる中国語契約書」という本を読んでみました。

本書は、前半部分に中国語契約書を読む上で必要な、中国法の基礎知識、中国語の契約書に特有な事項の解説で、後半部分は中国国内の動産売買契約書、賃貸借契約書、業務委託契約書、合弁契約書について、本書の左側部分に中国語、右側に日本語訳と解説が記載されています。

私は、仕事で中国語の契約書を読むことは皆無であり、また、今後もその予定も意気込みも無いので、本書の後半部分の対訳には正直興味はありませんでしたが、中国企業との契約交渉をする機会は多々あるので、中国語の契約法務について勉強出来ればと思い、本書を手に取りました。

本書を読んで感じたのは、一部の中国特有な強制法規、契約書に関連する登記制度を除けば、中国語も日本語の契約書も、チェックポイントはさほど変わらないんだな、というものでした。

なお、私は本書で中国法の瑕疵担保責任に関する定めを確認出来ればと期待していたのですが、本書では


<以下、抜粋>

このように「品質保証」と「権利保証」について契約書に定めておくのが望ましいのです。しかし、これらを契約書で定めていない場合が良くあります。中国ではこの場合、当事者が合意のうえこれを決めることができますが、合意が整わないときは、契約の全趣旨または商慣習によって決めます。これでも決められない場合は、国家基準や業界基準、一般基準、契約の目的に合致する特定基準によって履行するとされています。

<抜粋終わり>


という記載に留まり、具体的に、瑕疵担保期間や救済措置がどうなるのかについての解説がなかったのが残念でした。これはあくまで私の推測ですが、中国の法制度は良く変わるので、本書を今後も長い間「使える」書籍とするべく、あえて、具体的な内容を記載しなかったのではないか、と思われますが、考え過ぎでしょうか。

私の理解では、

中国では「製品品質法」上の「三包責任」が、日本でいう「瑕疵担保責任」に該当し、納入製品に、性能不備や仕様との不一致等があった場合、製品の購入者は、「その権益に損害を受けると知ったあるいは知るべきときから」2年間、製造者に対して修理、交換、返品、損害賠償を請求することが出来る。

と考えています。しかし、上記理解が正解なのかどうかどうも怪しいので、今後の個人的な課題として、引き続き調査を進めたいと思います。

なお、本書で個人的に参考になったのは、合意管轄の複数の要件に関する解説箇所で、中国国内取引に関する契約書の合意管轄裁判所を定める場合は、渉外取引に関する契約を除き、「被告の住所地」「契約(義務)履行地」「契約締結地」「原告の住所地」「目的物の所在地」にある人民法院に限定されているということです。

私の所属している企業グループは該当ありませんが、例えば、中国のA市に統括会社を設立した会社があり、中国のA市以外に所在する他の現地法人の雛形契約書では、統括会社が存するA市を管轄する地方裁判所を、合意管轄裁判所と定めた場合、もし、A市が上記要件「被告の住所地、契約(義務)履行地、契約締結地 、原告の住所地、目的物の所在地」のどれかに該当しない場合、当該合意管轄条項が無効になり、さらに最悪の場合、当該条項の無効により契約全体の効力も否定されてしまう可能性がある、ということです。

私は、現在、中国現地法人の契約書(日本語版と英語版のみ)のチェック依頼を受ける立場にありますので、合意管轄の定めについては留意したいと思います。

<目次>
第1部 中国語契約書の基礎(中国法の基礎知識;中国契約法の基礎知識;
    中国語契約書の基礎知識;注意すべき中国語契約書の表現)
第2部 中国語契約書の事例(国内動産売買契約書;賃貸借契約書;
    業務委託契約書;合弁契約書)

ビジュアル対訳 基礎からわかる中国語契約書ビジュアル対訳 基礎からわかる中国語契約書
(2008/10)
胡 健芳

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『当然対抗制度』導入による契約上のポイント(ビジネス法務2012年2月号)

今般は、雑誌:ビジネス法務 2012年2月号に、「平成23年特許法改正
『当然対抗制度』導入による契約上のポイント」という特集が組まれていて
参考になりましたので、その内容を書きとめておきたいと思います。

ご承知の通り、現行法では、特許権の通常実施権を、当該特許権を譲り受けた者等の
第三者に対抗する場合、通常実施権の登録をする必要があるところ、改正法では、
契約書等で通常実施権の許諾を受けたことを証明出来れば、登録が無くでも
対抗出来る「当然対抗制度」が導入されます。

上記雑誌で参考になったのは、改正後、ライセンシー(A)は、通常実施権を
登録しなくても、その効力を、従前のライセンサー(B)から特許権の譲渡を
受けた者(C)に主張出来るものの、ABの間で締結したライセンス契約が、
AB間からAC間に承継されるか否かについて議論があるようで、現在、
当該議論に決着がついていない、ということです。

上記議論は、
(イ)AB間のライセンス契約がAC間に承継される承継説
(ロ)AB間のライセンス契約がAC間に承継されない非承継説
(ハ)AB間のライセンス契約の一部のみが、AC間に承継される折衷説
の3つに大別されるようで、上記雑誌では、A、B、Cのそれぞれの
立場にとって、最も不利益が生じる可能性のある考え方が採用された場合を
想定した条文作成について解説されていました。

当該解説内容は、上記雑誌をご参照頂きたいのですが、個人的に留意したいのは、
例えば、ライセンス契約に、Bの技術情報、技術支援の提供義務を
定めていて、当該提供がBでしか実施しえない事項である場合で、
ライセンス契約がAC間に完全に承継されると判断された場合、
AはCに対して、通常実施権を対抗出来たとしても、技術情報等の
提供を受けられないことにより、Aの事業に大きなマイナスが生じる
可能性がありますので、特許権が譲渡された場合のライセンス契約義務の
承継の有無については、事前にライセンス契約書に明確にしておきたいところです。

P.S.
個人的な素人考えでは、特許権のAからCへの移転について、
Bが同意をしている場合は別として、特許権の移転と共に、ライセンス契約が
ABからACに同時に承継されるという上記(イ)承継説に違和感があるのですが、
みなさんいかがでしょうか。

上記(イ)承継説の立場の方は、どのような根拠で「承継される」と考えるのかについて、
上記雑誌で触れられていませんでしたので、今後の個人的な課題として、
調べを進めてみたいと思います。

ビジネス法務 2012年 02月号 [雑誌]ビジネス法務 2012年 02月号 [雑誌]
(2011/12/21)
不明

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競馬予想:有馬記念について

今般は、本ブログの趣旨とは全く関係ありませんが、
今日は有馬記念の馬券を買いに中山競馬場に行ってくるので、
事前に予想を載せておきたいと思います。

ちなみに、私は高校生の時に競馬にはまりまして、個人的に競馬予想の
HPを立ち上げて、毎週のように競馬新聞(勝馬)を購入して、
予想をUPしていました。

そこそこ的中していたので、見知らぬオバサンからファンレターメールを
貰うこともありまして、一時期は本気で、ベレー帽をかぶって競馬場周辺で
陣取っている予想屋になろうかと考えた時期もありました(笑)

大学入学後は競馬からはすっかり足を洗いましたが。

本日は、久しぶりに有馬記念に参加しようと思い立ち、
競馬場内に子供の遊べる広場もあるので、これから奥さんと娘(1歳)の三人で、
競馬新聞と赤ペンを握りしめて中山競馬場に乗り込もうと思います。

私の予想は以下の通りです。

<中山 10R 有馬記念>

馬連:1-2 1,000円
   2-12 1,000円

枠連:2-6 1,000円

※1番(1枠):ブエナビスタ
 2番(2枠):ヴィクトワールピサ
 9番(6枠):オルフェーヴル
 10番(6枠):トーセンジョーダン
 12番(7枠):アーネストリー

中山は4戦4勝で、昨年の有馬記念の勝利馬であるヴィクトワールピサを
軸に流してみようかと。

<阪神 9R 江坂特別>

馬連:1-5 1,000円
   1-8 1,000円
   5-8 1,000円

※1番:カノンコード
 5番:ハードダダンダン
 8番:ロードラテアート

消去法で上記3頭に絞れたので、3頭のボックス買いで。


「中山 10R 有馬記念」以外のレース「阪神 9R 江坂特別」も
購入することにしまして、後者の方が自信がありますが、
果たしてどうなることやら・・。

baken_convert_20111225181438.jpg


P.S.レース後記

今年は年末ジャンボ宝くじを買いそびれまして、
そのお金を今回の競馬につぎ込んだ、という意味合いもあり、
3億円ではないけど、数万円の儲けで我慢しようと考えておりましたが、、
結果として、上記馬券は全て外れてしまいました・・(笑)

なかなか上手くはいかないもんですね~。

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書籍:企業法務バイブル2010

今般は、「法律オンチが会社を滅ぼす」でお馴染みの畑中鐵丸法律事務所が出している
「企業法務バイブル2010」という本を読んでみました。

本書は、下記の目次の通りとなりますが、企業法務とはなんぞや、から始まり、
組織運営、労働、製造・調達、ファイナンス、知財、営業・販売関連という
複数のカテゴリーについて、主な課題や、法令、情報収集の仕方、予防法務、
戦略法務、訴訟法務のポイントが解説されています。
企業法務を網羅的に勉強したいという方には、その入門編としてお勧めします。

さて、本書で個人的に参考になった個所を、少し長いですが書き留めておこうと思います。
以下は、民事訴訟法務のポイントを解説した部分です。


「裁判官が早期に争いのある事実についての認識(心証形成)が出来るように協力する

 裁判官には、事件当初から、事件の背景や全体像を詳細に理解していただくことが
 重要です。裁判官は多くの事件を抱え、常に時間がありません。
 そのような多忙な裁判官にとっては、企業の生死を決するような重大な契約事故・
 企業間紛争や商事紛争であっても、一般的な民事事件と同じ「どうでもいい、
 犬も食わないロクでもない話」の一つにすぎません。
 
 (中略)

 多数の事件を抱え、常に時間に追われる裁判官は、少しでも早く事件の全体像を
 把握したがっています。そして、一度把握した事件の全体像は、よほどのことが
 ない限り、修正したりしません(事件の全体像を何度も変換させると、時間の無駄に
 つながりません)。
 ですので、事件の後半ではなく、初動段階が勝負となります。この段階で、
いかに裁判官に効率的に事件の全体像を示せるのかが、企業にとって勝負を決する
 ポイントとなります。」


ということで、本書では、訴訟の戦い方として、競馬でいえば後半から巻き返す
「差し馬」型ではなく、「先行逃げきり」型を勧めています。

裁判をどのように戦うのかは、弁護士によってそれぞれ戦略、得手不得手がありますので、
全ての裁判において「先行逃げきり」型が最適とは言えませんが、上記の記述には
一理あると思います。

ちなみに、私が体験した中国の裁判事例(当方被告側)ですが、担当した中国人弁護士は、
当方の第一回目期日の答弁書にあれこれ詳細な事項を記載すると、裁判官の心証が
悪くなるので、簡潔な内容が良いと主張し、A4ペラ1枚程度の答弁書案を提示してきました。

当方からの「答弁書が簡潔し過ぎやしないか」という質問にも、当該中国人弁護士は、
「日本と違い、中国では○○なんです。」と「中国特有の事情」を殊更に強調するので、
「そういうものなのかな」ということで弁護士の方針通り戦ったところ、本件については
1回の期日を経ただけで判決が出てしまい、後半に巻き返す前に裁判で負けてしまいました。
その後、弁護士を変えて控訴しましたが。

上記のケースでは、敗訴した原因が、「差し馬」型を選択したからなのか、
別の要因によるものなのか、それとも、当方はどんな方法・戦略を選択したとしても、
敗訴するべくして敗訴したのかは分かりませんが、今後の教訓としては、
「□□と違い、△△では○○なんです。」的な説明を受けて、どうも腑に落ちない場合は、
セカンドオピニオンとして、他の弁護士等にも相談するなどして、しっかりと
腹に落としてから、弁護士の回答を受け入れて判断するようにしたいところです。

<目次>
1 企業法務総論
2 企業法務各論―序
3 企業組織運営法務
4 「ヒト」に関する企業活動の法務(労働関連法務)
5 「モノ」に関する企業活動の法務(製造・調達関連法務)
6 「カネ」に関する企業活動の法務(ファイナンス関連法務)
7 「チエ」に関する企業活動の法務(知的財産関連法務)
8 企業の営業活動の法務(営業・販売関連法務)

企業法務バイブル〈2010〉企業法務バイブル〈2010〉
(2009/11)
畑中鐵丸法律事務所

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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