「基本契約書の締結の有無」と「締結済契約書の留意事項」の社内周知

大晦日ということで、2013年に「出来たこと」、「やろうと思ったけど出来なかったこと」をふと振り返ってみましたが、胸を張って公言出来るほど「出来たこと」って全然無いな、ということに気づきました・・。

ということで、何か暗くなってきましたが、今回は、「やろうと思ったけど出来なかったこと」について考えてみたいと思います。

まずは仕事面から。

一つ目は、「基本契約書の締結の有無を社内に周知する」という課題です。

以前、2013年5月3日付の「我社の契約書の管理方法(その1)(BLJ 2013年6月号)」という記事にて、「既存の取引先との基本契約書の締結の有無については、営業担当が法務担当にいちいち確認しなくても、営業担当が自然と認識出来るような仕組みを作りたい」という課題を記載しました。

上記課題は、ある営業担当者が、既に社内に登録済の取引先と取引を開始する際に、当該取引先とは基本契約書が締結されているに違いない、と思い込んで取引していて、何らかのトラブルが発生したときに初めて、基本契約書が実は締結されていなかった事実を知る、というケースを防ぎたい、というところに目的があります。

現在、営業担当がシステム上で発注手続きをする画面に、「基本契約書の締結の有無の欄」を設け、発注の都度、契約書締結の有無を確認出来る仕組みまでは出来たのですが、まだ入力作業が出来ていません。来年から、法務担当として後輩が入社する予定となっており、上記対応に割ける余裕が出来ますので、2014年の早々には登録作業を完了させて、社内に周知したいと思います。

ただ、基本契約書の締結の有無が容易に認識出来るだけでなく、どのような内容が記載されているのか容易に認識出来なければなりません。ということで、それは以下の課題につながります。

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それは、「締結済契約書の留意事項を社内に周知する」という課題です。

例えば、当社の販売先であるA社と基本契約書の交渉をしていた際に、瑕疵担保期間は通常1年と定めるところ、「他のサプライヤーは全て原文通り締結しております。原文通り締結しない場合は取引が出来なくなりますよ。御社の代わりなんていくらでもあるんですからね。」という常套句をA社から言われて、度々の交渉の結果、やむを得ず、瑕疵担保期間を3年間と定めて締結せざるを得ない場合があります。

そこで、上記契約を原文通り締結する際の社内的な前提条件として、A社との基本契約書の条件(3年)と、サプライヤーとの基本契約書の条件(例えば1年)のギャップで不利益を被ることのないよう、サプライヤー、当社、販売先であるA社を交えて取り交わす仕様書にて、必ず、個別取引毎に瑕疵担保期間を合意して取引する、という条件を設けて契約を締結していた場合。

上記契約後、暫く経って、上記契約当時の営業担当ではない、別支店の営業担当が、A社と取引を開始する際に、契約当時の営業担当から、契約締結時の留意事項について説明を受けていないと、問題が生じることになります。

ということで前置きが長くなりましたが、上記対策としては、基本契約書に限りませんが、取引先と締結した契約書に関する留意点・不利な条文・例外的な条文がある場合は、その内容を、社内限りのデータベース上に公開して、仮に、既に口座を開設済の取引先と、開設当時の営業担当以外の営業担当が、新規で取引を開始する場合は、上記データベースを必ず閲覧してから取引を実施する、という仕組み作りをして、上記問題が発生するのを防ぎたいと考えております。

ただ、上記データベースをどこまで公開するのか、という閲覧権限の問題があります。また、過去、法務担当が契約書をチェックするルールが出来る前に、何の検討も無く原文通り締結された契約書が数千件ある中で、どこまで遡って、契約内容を確認して公開するのか、という問題もあります。

また、どの程度の内容まで公開するのか、契約書内の不利な条項だけでなく、契約書の全文コピーも参考情報として丸々公開するのか、という問題もあります。取引先の中には、契約書の内容そのものが秘密情報に該当する、と主張してくるところもあり、当社と販売先が締結した契約書を、当社のサプライヤーの要求に応じて当該サプライヤーに開示すると、秘密保持義務に違反したとして販売先から怒られる、というケースも想定されます。その辺の機微を考えられない若手の営業担当に対して、無闇に契約書の全部もしくは一部をオープンにすることはリスクがありますので、上記仕組み作りは慎重に進める必要があります。

しかし、いずれにしても、契約締結時の留意事項が、当該契約書に関わった当時の法務担当と営業担当しか知らない、という状況は、長期的に考えて非常によろしくありませんので、来年中には対応に着手したいと思います。

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次は、準仕事的な話ですが、昨年は、英語の勉強を頑張ろうと年始に考えていたものの、必死さが足りなかったな、という反省があります。英語の勉強は、インプット中心に実行してはいましたが、年始には、アウトプットの量を増やそうということで、オンライン英会話を始めてみようと考えていたものの、結局、全くやらず仕舞いでした・・。

家では奥さんも子供もいるので、家のPCで楽しそうにフィリピーナと英会話で話すことなんて出来ないよ、ということを言い訳にして、手を出しておりませんでしたが、その気になれば、スマートフォンで帰宅前に受講することも出来たはずですし、要はヤル気の問題でした・・。会社からの補助もあるようですので、来年こそは、オンライン英会話にトライしてみたいと思います。

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以上で、今年最後の記事を書き終えました。
長くなってしまいましたので、来年の課題・抱負については、次回の記事に記載したいと思います。

いやーしかし、今年書いた記事を振り返ってみましたが、チラ裏な話はまだ良いとしても、偉そうに書いてみた割には理解に間違いがあった話、今読み返すと削除したくなるような、私の無知を露わにする記事を結構書いてしまいましたね・・。

ただ、私は、特に契約法務については一人法務状態なので、顧問弁護士を除いて、身近に相談出来る人がいない中、このブログでコメント欄等を介して、皆様からご指摘・ご指導を頂くなかで、誤りを正す機会を得ることが出来たり、また、自分の無知を知る機会を得ることが出来、ブログをやっていて良かったな~と、改めてしみじみ感じました。皆様、ありがとうございました。

また、こうして記事を公開する以上は、少しでもご覧頂く方にとって有益な内容となるよう、心掛けて書き続けていきたいと思いますので、来年も引き続き、弊ブログをよろしくお願い致します。

hitorihoumu
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(1)仲裁費用の高負担に注意、(2)中国の裁判所は外国仲裁に冷たい?

先日は、商事法務 2013年11月15日号に掲載されていた、森本大介弁護士、前田葉子弁護士著作の「米国・中国・台湾企業との国際契約における紛争解決手段の視点(上)」にて、仲裁でもディスカバリーが行われる場合があるとの記述を取り上げさせて頂きました。

今回は、同一論文内にて記載されていた、仲裁費用の負担に関する記述についても参考になりましたので、以下に抜粋しておこうと思います。


<以下、抜粋>
仲裁を選択した場合の、金銭的な負担としては主に、(1)仲裁機関に支払う事務管理費用(仲裁機関による場合)、(2)仲裁人報酬、(3)弁護士報酬および費用がある。
(1)と(2)については仲裁機関ごとに規則が設けられており、機関によって金額が異なる。たとえば、International Chamber of Commerce(ICC)を選択した場合、(1)と(2)の合計は、平均すると、係争額5,000万円の場合、約410万円(仲裁人1名の場合)または約950万円(仲裁人3名の場合)、5億円の場合、約2,680万円(仲裁人1名の場合)または約6,130万円(仲裁人3名の場合)となる。

(中略)

ただし、仲裁人においては訴訟と異なり、仲裁人が当事者の費用負担について決定を下す権限を有し、この費用には各当事者が費やした外部費用も含まれる。そのため、仲裁判断を勝ち得た当事者は、場合によっては外部弁護士費用についても相手方から全部または一部取り戻すことができる
<抜粋終了>


ということで、仲裁の場合は、仲裁合意条項で費用分担を定めた場合はその内容と、仲裁人次第で、ひょっとしたら仲裁管理費用だけでなく、弁護士費用も相手方に請求することが可能となるかもしれないものの、結構な仲裁費用を負担しなければならないリスクがあることについては、注意が必要ですね。

仲裁合意条項で仲裁人の人数を合意していない場合、仲裁コストを考慮して仲裁人を1名とするよう主張するのか、もしくは、より妥当な結論が出るように仲裁人を3名とするよう主張するのか、難しい選択になりますね。

売買契約の場合で、もし自社が買主であれば、主な義務は代金の支払債務位であり、自社が債務不履行をする恐れは、売主のそれと比較して少ないかと思いますので、上記契約書に仲裁合意条項を設ける場合には、仲裁費用(弁護士報酬を含む)は敗訴側が負担する旨、明記した方が良さそうですね。

さて、話は変わりますが、上記論文(上)には、仲裁を外国で行う場合において、日本や米国の裁判所が保全命令の申立てを受理するのか否かについても解説されておりました。

また、商事法務 2013年11月25日号に掲載されていた、上記論文の(中)(森本大介弁護士 , 張翠萍弁護士 , 前田葉子弁護士著作)や、商事法務 2013年12月5日号に記載されていた、同論文の(下)(孫櫻倩弁護士著作)には、仲裁を外国で行う場合において、中国や台湾の裁判所が保全命令の申立てを受理するのか否かについても解説されておりました。

その中で注意が必要なのが、中国の裁判所は、外国仲裁の場合、保全措置を申し立てても受理してくれない、と言う点です。その為、保全措置が重要となる知的財産権関係の契約書については、仲裁地は中国で合意すべし、という著者の指摘は、今後、中国法人と契約書を締結する際に留意したいと思います。

双方とも中国法人間の契約であっても、親会社(台湾とか日本法人とか)の関係で、仲裁地が親会社の所在地に設定されているケースが散見されますが、中国法人間の契約なんだから中国で仲裁しましょうとかいって、修正した方がいいですね。

Fin

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仲裁合意していても、ディスカバリーを行う場合あり

今般は、最近の商事法務で気になる記事がありましたので、以下にまとめておきたいと思います。

なお、商事法務は会社で購読しておりまして、まずは私宛に冊子が届き、その後、回覧する人の名前が記載されている回覧表を貼付して、上司やら他の管理部門へ回覧を進めるのですが、(私には)小難し過ぎて、読んでもすっと頭に入ってこないので、よっぽど気になる記事しか読んでいません。ただ、あんまり読んでいないのがバレるのもまずいので、読んでいないにも関わらず、折り目やドックイヤーを付けて回覧するときもあります(笑)

さて、つまらない前置きが長くなりましたが、個人的に気になった記事は、2013年11月15日号に掲載されていた、森本大介弁護士、前田葉子弁護士著作の「米国・中国・台湾企業との国際契約における紛争解決手段の視点(上)」という論文です。

まずは、早速、該当箇所を以下の抜粋してみたいと思います。


<以下、抜粋>
(3)多くの先進国の仲裁法や仲裁機関の規則上、仲裁人には当事者に証拠開示を命じる権限が与えられている(注二六)。しかしながら、仲裁においてどのような範囲でどのように証拠開示を行うかという具体的な規定は存在せず、そもそもディスカバリー手続を行うか否かとあわせて、仲裁人の裁量によって決まる。ただし、ディスカバリーを行わないという当事者の合意をすることも可能であり、仲裁人はこれに拘束される(注二七)。
(中略)
一般的に、一定の規模を超える国際仲裁においては一定規模のディスカバリーが行われることが多く、ディスカバリーが一切行われないようなケースは少ない(注二九)。
<抜粋終わり>


ということで、仲裁合意さえすれば、費用と時間が掛かるディスカバリー手続きから解放されるわけではない、というのは勘違いしやすい点ですので注意が必要ですね。

なお、上記の点について、浜辺 陽一郎氏著作の「ロースクール実務家教授による英文国際取引契約書の書き方―世界に通用する契約書の分析と検討」という書籍に、興味深い記述がありましたので、これまた以下に抜粋してみたいと思います。


<以下、抜粋>
米国の連邦法や州法においては、仲裁手続においても裁判所における証拠開示手続の利用を認めている。さらに、これが司法共助によって米国内では州境を越え、証拠開示が行われることもあり、さらに米国の国境を越えて外国に及ぶことがありうる点に注意する必要がある。
(中略)
現に、In re Application of Roz trading Ltd.事件では、オーストリアにおける仲裁について米国の連邦裁判所に証拠開示の申立てについて、外交ルートを正式に通したわけではないが、米国裁判所における証拠開示を認めた。この判断により、国際商事仲裁から米国の証拠開示手続に洪水のような申立てを導く可能性があると指摘するものもある。
<抜粋終わり>


ということで、米国で実施される仲裁でディスカバリーが行われる可能性があるだけでならまだしも、米国外で仲裁をする場合にも、ディスカバリーが実施される可能性もある、というのは、ディスカバリー対応能力が低い会社にとってはかなり怖い話ですね・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル 

もちろん、米国内に、仲裁判断に影響を与える可能性のある資料等が存する場合にのみ、上記例外を裁判所が認めるのかと思いますが、ディスカバリー慣れしている大手企業の相手方が、嫌がらせ目的と時間稼ぎと消耗戦に持ち込む意思をもって、ディスカバリー慣れしていない会社を相手にディスカバリーを発動してきて、それが受理されるリスクもあるかと思いますので、自社のディスカバリー対応能力が低いと認識している会社は(私の所属会社は、・・秘密です・・。)、仲裁合意条項にディスカバリーを排除する文言を設けましょう。ただ、ディスカバリーを排除する文言を設けた場合、自社のディスカバリー対応能力は低いことを公言していることになるのでは、という懸念もありますが、これは考え過ぎですかね。

なお、上記論文には、仲裁における証拠開示手続以外にも、参考になった個所がいくつかあり、また、次回号の「米国・中国・台湾企業との国際契約における紛争解決手段の視点」の「中」と「下」についても、参考になる記述がありましたが、長くなってしまいましたので、次回の記事にて取り上げさせて頂きます。

To be continued.

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反社会的勢力の排除条項では、「解除」ではなく「解約」を使用してもおk、でもなかった・・。

経文緯武さん
はっしーさん
田舎法務さん

「反社会的勢力の排除条項では、『解除』ではなく『解約』を使用してもおk?」という記事についてコメント頂きありがとうございました。

今回の記事で、またしても、私の勉強不足・無知を公表する形となり、お恥ずかしい限りです・・orz

上記記事のコメント欄にも、下記と同一の返答をさせて頂きましたが、返答内容を記事としてもUPさせて頂きます。

今後ともご指導の程、よろしくお願い致します。

hitorihoumu

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経文緯武さん

ご指摘ありがとうございます。


>解除が契約を遡及的になかったものとするという意義は、
>債務不履行の効果を及ぼさないということであって、取消のように、
>契約が成立してから解除されるまでに収受した対価まで
>返還せよということではありません。
>賃貸借契約を解除する訴訟において、契約成立以降の収受した賃料を
>返還するので、賃料相当損害金を請求するなんてことはしません。


上記の部分ですが、「契約成立以降の収受した賃料を返還するので」の部分は、「契約の解除時以降に収受した賃料を返還するので」の誤記でしょうか。もし、私の勘違いでしたら申し訳ありません・・。

私の基礎知識不足により、特に「解除が契約を遡及的になかったものとするという意義は、債務不履行の効果を及ぼさないということ」というところが理解出来なかったのですが、ご指摘内容は、「賃貸借契約」の「解除」は、(民法第620条に基づき、)あくまで将来に向かって契約が消滅することであり、貸主は、契約成立時から契約解除時までに収受した賃料については返還する義務は負わないので、

(1)賃貸借契約を解除するので、契約は契約時に遡って消滅する
(2)双方に原状回復義務が生じ、貸主は、契約時から解除時までに収受している
   賃料を返還する義務が生じる。
(3)借主が反社会的勢力でなければ、契約を解除して返還する必要の無かった
   上記賃料相当額について、貸主は借主に損害賠償を請求する。

   ※上記(3)の他、当然、契約解除に起因して貸主に発生した損害についても、
    貸主は借主に賠償請求をする。

という話には、そもそもならない、という内容と理解させて頂きました。

ご指摘の通りかと思います。「賃貸借契約を解除する場合には、契約時に遡って双方に原状回復義務が生じるはず」という、私の考えが誤りでした。ご指摘ありがとうございました。

また、ご記載頂いた下記リスクについては、認識しておりませんでした・・。


>解約については確かに多義的な用語なのですが、賃貸借契約の場合、
>合意解約に近い意味で捉えられますので、反社条項の効果として
>解約をお書きになると相手方の同意が必要といういちゃもんをつけられる
>リスクがある


契約書には「何らの催告も要せずして」と記載しているので、問題無いと考えておりました。

契約書には、「解除」と記載するにしろ「解約」と記載するにしろ、解除・解除時の効果について、明確に契約書に記載し、双方で解釈の相違が無いようにしたいと思います。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

はっしーさん

いつもご指摘ありがとうございます。

ご記載頂いたリンクを拝見し、民法第620条(賃貸借の解除の効力)の存在を今回、初めて知りました。勉強不足でした・・。


<民法第620条(賃貸借の解除の効力)>
賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。
この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の
請求を妨げない。


民法第620条によると、「賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」ようですので、賃貸借契約書において、解除条項に「解除」という文言を用いた場合でも、契約時にまで遡及して契約が消滅するわけではなく、契約書の文言としては、「解除」でも「解約」でもどちらでも良い、と理解しました。

なお、今回の契約書の反社会的勢力の排除条項については、皆様からのコメントや、上記リンク内の回答・監修者コメントを参考にさせて頂き、再度、検討してみたいと思います。

また、今回のように、民法の条文に関する知識不足をカバーする為、今後、気になるテーマについては、民法の条文を特定のワード(今回であれば「解除」)で検索するようにし、知識の漏れをカバーするようにしたいと思います。

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田舎法務さん

ご指摘ありがとうございます。

私の所属会社は、大手取引先の暴力団排除条項に倣い、まさに、ご指摘頂いたような「反社側をふんだりけったりの状態にする規定」を基本契約書に定めております・・。

幸いなことに、当社はこれまで、上記条項に基づいて契約を解除等しなければならないような事態には遭遇したことがありませんが、今後の判例で、暴力団排除条項がどう判断されるのか、結果が見えた段階で、必要に応じて、条項の内容を変更していきたいと思います。

hitorihoumu

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反社会的勢力の排除条項では、「解除」ではなく「解約」を使用してもおk?

最近、私が所属している会社が、自社で保有している不動産を第三者に賃貸することになり、私が賃貸借契約書のドラフトを作成することになりました。

そこで、まずは、ネットで参考になりそうな契約書が転がっていないか探したところ、京都府の宅建協会が、事業用不動産の賃貸借契約書フォーマットを公開していましたので、この契約書をベースに作成してみました。

※ちなみに、東京都の宅建協会のHPでは、各種契約書式のダウンロードを
 するには会員になる必要があるようで、入手出来ませんでした。
 ケチ臭いですね。

ただ、賃貸借契約書を作成していて一点、気になったのが、反社会的勢力の排除条項をどうするか、ということです。

まずは、京都の宅建協会が公開している賃貸借契約書の反社会的勢力の排除条項を、以下に抜粋して記載してみたいと思います。

<建物賃貸借(一般事業用)の一部抜粋>
第10条(契約の解除)
3 甲又は乙の一方について、次のいずれかに該当した場合には、
  その相手方は、何らの催告も要せずして、本契約を解除することができる。
  一 第12条の確約に反する事実が判明したとき。
  二 契約締結後に自ら又は役員が反社会的勢力に該当

第12 条(反社会的勢力の排除)
甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約する。
一 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又は
  その構成員(以下総して「反社会的勢力」という)ではないこと。
二 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる
  者をいう)が反社会的勢力ではないこと。
三 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。
四 自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。
  ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
  イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
<抜粋終了>


ということで、上記契約書では、一方の当事者は、契約の相手方が反社会的勢力だった場合、賃貸借契約書を催告することなく解除出来る内容となっております。

なお、京都府と東京都の暴力団排除条例はほとんど同じ内容となっておりまして、両条例とも、「契約の相手方が反社会的勢力であった場合、催告をすることなく、契約を解除出来るような条文を定めるよう努力しなければならない」と定めており、京都府の宅建協会の賃貸借契約書フォーマットは、上記条例通りの内容となっております。

私は、当然のことながら、上記の暴力団排除条例の内容は把握しており、私の所属している雛形基本契約書には、反社会的勢力の排除条項を定めておりますが、今回、貸主として賃貸借契約書をドラフトするにあたって、ふと考えさせられたのが、「解約」じゃなくて「解除」にしないといけないのか、ということです。

ご承知の通り、「解約」と「解除」は一般的に混合されて使用されることが多いですが、正確には、双方は異なる概念であり、以下の内容となっています。


 解除:契約を遡及的に消滅させる。
 解約:契約を将来に向かって消滅させる。


ということで、上記の賃貸借契約書フォーマットでは、一方の当事者は、相手方が反社会的勢力であった場合、「契約を遡及的に消滅させる」ことが出来るということとなります。なお、契約が解除された場合には、民法第545条(解除の効果)1項の定めにより、双方当事者は、原状回復義務を負うことになります。

ということは、貸主の立場としては、契約を解除した場合、今まで受領していた賃料を反社会的勢力に返還しなければならず、さらに、民法第545条(解除の効果)2項の定めによると、受領時から計算した利息と合わせて賃料を返還しなければならないことになります。

数か月の賃貸借期間であればまだいいものの、数年間、契約関係が継続した後に契約を解除する場合、返還しなければならない賃料及び利息はかなりのものになりますので、これは厄介なことになりますね。

まぁ、相手方に対する損害賠償の請求金額の方が、返還しなければならない金額を超えるでしょうから、トータルで考えればマイナスにはならないとは思いますが、実際、契約を解除する事態となった場合、どうなるのか分かりません。

都条例が「解約」ではなく「解除」を採用した理由は、おそらく、「反社会的勢力との関係を一切絶たなければならないんだ」という強い姿勢をアピールする目的と、相手方が反社会的勢力に該当することの確認を契約前に怠ったもう一方の当事者の責任を考えてのことでしょうか。

ということで、長々と書いてしましましたが、私が作成したドラフトでは、上記懸念事項を考慮した結果、「何らの催告も要せずして、本契約を将来に向かって解約することができる」という内容にしてみました。

ちなみに、「本契約を将来に向かって解約することが出来る」と言う表現は、「頭痛が痛い」と同様、違和感のある文言ではありますが、相手方との間で、後々、解釈の相違が生じないよう、あえて上記の通り記載してみました。

なお、東京都暴力団防止条例では、契約の解除条項を定めることは契約者の「努力義務」なので、「解除」を「解約」にしても御咎め無しでしょう。たぶん・・。

最後に、私は、「反社会的勢力の排除」のテーマについては、これまでは購読している雑誌の「BLJ」や「ビジネス法務」で取り上げられていたら読むくらいで、専門書を読んだことは無いので、これを機に勉強してみたいと思います。

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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