「買主が売主に紛争解決の排他的な権限を与えた場合」とは何なのか

契約書をチェックしていますと、知的財産権に関する条項に、納入製品が第三者の知的財産権を侵害した場合の売主の責任の発生要件として、下記2点を定めているケースに遭遇することがあります。

(a)買主は、第三者との間で知的財産権の侵害に関する紛争が
   発生した場合、速やかに売主に通知すること。
(b)買主は、売主に対して、上記紛争の解決に関する
   全ての排他的権限を与え、紛争解決に向けて売主に協力すること。

上記(a)は当たり前のことではありますが、上記(b)の「排他的な権限」とは何なのか、いつも悩まされます。上記表現ですと、解釈によっては、紛争の解決方法・内容について当社の意向を反映させることが出来ないことになり、また、第三者があくまで当社との二社間での紛争解決を要望した場合にどうなるのか、という問題が生じます。

そこで、上記(b)のような条文を提示された場合は、削除を依頼するようにしていますが、削除に応じてくれず、やむなく原文通り締結するケースもあり、将来、上記条文が争点となる紛争が発生した場合にどうなるのか、密かに懸念しています。

相手方が日本企業の場合、交渉窓口の偉い人から、「契約書には、紛争解決の排他的な権限を与えるなんて書いてあるけど、実際は双方協議の上で解決させて頂きますよ。」というお守りメールを受領して、締結に進む場合もありますが、準拠法が英米法の場合、または、契約書に完全合意条項が定められている場合、上記お守りのご利益には期待出来そうにありません。

上記のような条文について、手持ちの契約書関係の書籍で調べてみたところ、「国際売買契約―ウィーン売買条約に基づくドラフティング戦略」によると、ウィーン売買条約(CISG)第42条では、第三者の権利を侵害しないような物品を引き渡す売主の義務の発生要件について、不明確な内容となっており、売主として予見可能性が低い内容であることから、売主の立場でドラフトする際の参考として、上記2つの条件を含めた、売主の責任発生要件を厳しくした条項例が掲載されていました。

ただ、上記条項を定めていた場合の具体的な効果については、上記書籍には解説がされておらず、上記疑問については解消されませんでしたので、今後の個人的な課題としたいと思います。
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英米法でいう「危険負担」の定義とは?(その2)

今般は、ビジネスロー・ジャーナル(BLJ)の2014年2月号で特集されていた「法務のためのブックガイド」や、複数の法務ブロガーの方達が取り上げられていた「英文契約書の法実務 ドラフティング技法と解説」という本を読んでみました。

本書は、この手(?)の書籍と同様、英文契約書に関する一般的な留意点、一般条項の解説、具体的な契約書に関する解説、という構成となっていますが、私の少ない読書経験から言えば、本書にて、国連ウィーン売買条約(CISG)、ユニドロワ国際商事契約原則(UPICC)を考慮したドラフティングの留意点について、独立した章を立てて詳しく解説されている点が、他の類書に無い特徴かと思いました。

早速ですが、本書の中で個人的に心に留まった箇所の内、「危険負担」について解説した箇所を、少し長いですが以下に抜粋しておきたいと思います。

<以下、抜粋>
危険負担条項では、インコタームズに従い、物品の引渡しの時と同時に危険が移転するという規定が置かれる。CISGでも物品の運送を伴う場合と伴わない場合、運送中の場合と三つに分けて危険の移転条項がある(66条~68条)。ところで、日本民法の危険負担制度(民法534条~536条)とCISGでの危険移転制度は名称は似ているが異なった制度である(前傾371~372頁。この点曽野裕夫=中村光一=船橋伸行「ウィーン売買条約(CISG)の解説(3)」NBL890号、注12参照)。すなわち民法の危険負担制度は、債務者に帰責事由がない後発的な履行不能で債務が消滅した場合、債権者の反対債務の存続に関わる制度であるのに対して、CISGの下での危険移転とは、損失損傷の発生時期により売主の義務違反になるか否か判断する制度である。日本の危険負担の問題はCISGでは契約解除の可否の問題となる。しかし、実際は日本企業の場合、危険移転については、インコタームズが採用されているので、実務的にはこれにより、CISGの危険移転の規定を適用する余地は少ない。
<抜粋終了>

なお、私は以前、「英米法でいう「危険負担」の定義とは?」という本ブログの記事にて、

<以下、抜粋>
今度は、日本も批准しているウィーン売買条約(=国際物品売買契約に関する国際連合条約)の「危険負担」の定めを見てみたいと思います。

CISG 第66条(危険移転の効果)
Loss of or damage to the goods after the risk has passed to the buyer does not discharge him from his obligation to pay the price, unless the loss or damage is due to an act or omission of the seller.

(日本語訳)
買主は、危険が自己に移転した後に生じた物品の滅失又は損傷により、代金を支払う義務を免れない。ただし、その滅失又は損傷が売主の作為又は不作為による場合は、この限りでない。

ということで、ウィーン売買条約では、「危険負担」とは、日本の民法と同様、売買契約において「売主の履行不能の場合の買主の支払い義務の有無」の問題と捉えているようです。
<抜粋終了>

と記載しておりましたが、どうやら私の理解が浅かったようです・・。

CISG第66条では、「買主は、危険が自己に移転した後に生じた物品の滅失又は損傷により、代金を支払う義務を免れない。」とは記載しているものの、売主の帰責性については一切言及されておりません。危険移転後は、売主の引渡し債務が終了しているので、物品が滅失等をしたとしても、買主は代金の支払い義務を負担する、と定めているだけでした。

またしても私の理解不足・読解力不足を露呈した形となり、恥ずかしい限りですが、遅ればせながらここで正しく理解出来て良かったです。

それでは、よしじゃあ、分かったと。CISGでは、日本法でいうところの「危険負担」については定めておらず、あくまで「危険移転(履行危険の移転時期)」について定めているだけ、というのは理解したけど、じゃあ、英米法を準拠法とした契約書における「risk of loss」条項では、CISGと同様、あくまで「危険移転(履行危険の移転時期)」について定めていると考えて良いか、という疑問が生じます。

上記については、英米法の法理では、「契約締結後に不測の事態が発生して、履行不能となった場合でも、基本的には当該債務者は免責されない。」と考えることを考慮しますと、「過失責任主義を前提とした日本法でいうところの危険負担」は「英米法でいうところの危険負担」とはイコールではない、と考えて良さそうですね。たぶん。

正解をご存知の方にとっては、何を今更な話ではありますが、まだいまいち、私は危険負担周りの理解が乏しいので、今後の個人的な課題として、勉強を進めていきたいと思います。

願わくば、今年入社した新人法務担当(Aさん)から、「日本法でいう危険負担と、英米法上でいう危険移転は同じ概念と考えて良いでしょうか?」という質問が来る前に、正解を探しておきたいと思います・・。万一、明日、上記質問を受けた場合には、逆質問で、「逆に、Aさんはどうだと思う?私が今ここで正解を教えるのは簡単だけど、それじゃあAさんの勉強にならないから、一度、自分で調べてみるといいよ。調査してみて正解が分かったら、報告してね。Aさんの理解が正しいか答え合わせしよう。」とでも言って、時間を稼ごうと思います・・。

<目次>
第1章 英文契約書の基礎知識(英文契約書ドラフティングのコツ
    (外国人弁護士から日本クライアントへ)
    英文契約の契約解釈原則 ほか)
第2章 英文契約書の共通条項と解説(英文契約書の基本的形式;
    一般条項(Boiler-Plate Clauses)
第3章 英文契約書類型別ひな型と解説(国際売買契約書;
    販売代理店契約書 ほか)
第4章 国連ウィーン売買条約(CISG)、ユニドロア国際商事契約原則
    (UPICC)の下でのドラフティング留意事項(CISGとは;
    UPICCとは 他)

英文契約書の法実務-ドラフティング技法と解説-英文契約書の法実務-ドラフティング技法と解説-
(2012/10/01)
杉浦 保友、菅原 貴与志 他

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新人の教育担当になりますた。

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

早速ですが、今回は、今年の初記事ということで、今年の抱負・課題を記載しておきたいと思います。

前回の記事にて、昨年「やろうと思ったけど出来なかったこと」として挙げた事項は、そのまま横滑りして今年の抱負というか課題となりましたが、上記以外の抱負・課題について以下にまとめておきたいと思います。


課題1.新人の教育
以前の記事でも少し触れましたが、今年から、私の所属会社に新しい法務担当が入社し、私が教育担当となりました。新人のスペックをあまり詳しく書くと、その方から特定されるリスクがありますので、「新人はロースクールを卒業した法的素養のある方で、私よりも数歳年下」とだけ書いておきます。なお、新人は間違いなく私よりも法的知識を豊富に持っているかと思い、私は、この年末年始休みに民法の基本書を読んで、付け焼刃的に知識を増加させる悪あがきをしていました(笑)

なお、前職を含めて、私の下に直接的な後輩が入ってくるのは初めてのことなので、どのように対応すれば良いか試行錯誤の毎日ですが、これを良い機会に、後輩と共に私も成長していきたいと思います。

なお、新人に接する上では、個人的には以下の事項を常に頭に入れて対応しておきたいと思います。項目が重複するところもありますが、思いついたことを順不同で書いてみます。下記の他に「こんなことを心掛けた方が良いのでは?」というようなことがあればご教示頂ければ幸いです。

(1)私の役割は新人を自立させること。過保護は厳禁。
(2)新人は私のアシスタントではない。
(3)致命的にならない程度に、たくさんの失敗を体験させる。
(4)「自分でやった方が早い症候群」にならないように注意。
(5)新人におもねることは当然しないが、褒めて伸ばす。
   少なくとも、新人の自尊心を損なうような発言はしない。
   叩いて伸びる奴なんてそうそういない。
(6)(初めは仕方ないにしても)新人が私に相談する場合は、新人なりの考えを
   持った上で相談にくるよう徹底させる。
   これは以前の記事にも書きましたね。

課題2.目的の無いネットサーフィンはしない。
非常に細かい課題ですが、自宅にて目的の無いネットサーフィンしていて、「ああ、もうこんな時間か・・」と思うことが多いので。時間は有限ですからね。

課題3.貿易実務検定B級・C級を取得する。
これは昨年の課題にしていましたが、色々と自分に言い訳をして真面目に勉強に取り組みませんでしたので、今年こそは取得したいものです。

課題4.悪口をいうときの留意点
悪口や人のマイナス部分を言葉や文章で発する場合は、仮に、本人が目の前にいた場合でも発することの出来る内容・レベルに制限して発するようにする。(上司に似てきたのか:笑)、つい毒舌が過ぎるときがあるので、気をつけたいものです。悪口を言う際は、自分の事を棚に上げている可能性が十分あり、悪口は悪口を言う人の品位を下げますので、節度を持って悪口を言いたいと思います・・。


ということで、しょうもない課題も含めて、新年の決意を書いてみましたが、果たして今年の年末はどんな感じになっているのでしょうか。

今年もだいたい週一ペースで細く長く更新を続けていきたいと思いますので、よろしくお願い致します!!

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41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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