商社の隠れた「品質保証機能」について

一般的に、商社には「商取引機能」、「情報・調査機能」、「市場開拓機能」、「物流機能」、「金融機能」があると言われていますが、専門商社で法務担当をしている私としては、上記機能に加えて、「品質保証機能」があるのではないかと考えております。「機能」と言いますか「存在価値」という方が正しいかもしれませんが・・。

顧客が商流に商社を介在させるメリットとしては、「品質保証機能」の観点で言いますと、例えば、

1.特に材料メーカーは、取引を開始する際に取り交わす基本契約書に、
  「不具合が発生した場合には、修理、交換か、返金という方法でしか
  補償しない!」という条文を定めることがマスト、という会社が
  ほとんどです。特に外資系メーカーはほぼ上記スタンスです。
  そこで、特に材料メーカーからモノを購入したい顧客は、
  上記のようなウルサイことは言わない(むしろ、言わせない・・)商社を
  商流に介在させて、取引価格に関わらず、何かあったら商社に
  賠償請求出来るようにする。

2.中小企業の中には、高い技術力のある会社はたくさくあるものの、
  賠償能力は当然高くないので、商社を商流に介在させて、
  何かあったら、商社に賠償を請求出来るようにする。

3.下請法上の下請事業者に該当するサプライヤーと直接取引した場合、
  下請法上の色々な制約を受けるので(補償方法に限りませんが)、
  そこそこ大きな規模の商社を商流にかませて、下請法の適用を免れたい。

サプライヤーが商社をかませるメリットとしては、「品質保証機能」の観点で言いますと、上記の裏返しで、自社に代わって、商社が顧客に対する品質保証責任を引き受けてくれる、というところでしょうか。

商社としても、自社から「品質保証機能」をアピールすることはありませんが、それ相応の利益を頂けるのであれば、顧客とサプライヤーの間に介在して口銭を稼ぎつつ、ある程度の品質保証責任(+問題が発生した場合には双方の板ばさみになって胃が痛くなるリスク・・)を負担することもやむなし、というところです。また、自社でサプライヤーの選定や管理をしっかりすることで、品質問題が発生しないように対応しております。

ただ、近年、私の所属会社だけではなく、他の専門商社も同じかと思いますが、顧客から、以下のように言われて取引を開始することが増えてきました。

「当社(=私の所属会社の顧客)は、現在、サプライヤーA社から製品を調達したいと考えているのですが、当社とA社との間に入って貰えませんか?当社としてはあまり小口の口座数を増やしたくないので、口座集約の為に、B社さん(=私の所属会社)には、伝票上だけ商流に入って頂くだけで結構ですので。仕様は当社とA社の二者間で決めますから、仕様の認定でB社さんにお手数はお掛けしませんし。」

上記のような取引では、一見すると、通常の取引に比べれば当社の手間は減りますので、その分、他の取引と同等の利益は要求することは出来ず、粗利率は低くなります。しかし、目に見えない品質保証リスクは依然として存在するわけです。

そこで、上記取引の打診を受けた際に、「サプライヤーを選定したのは当社ではなく、また、仕様の認定作業にも関わっていないので、当社の瑕疵担保責任を免責する旨の覚書を取り交わしたい。」という提案を顧客にするようにしていますが、特に大手の顧客の場合は、

「そのような覚書は上がうるさくて締結が出来ないんですよね~。(海外の親会社の承認を得るにも時間が掛かりますし。)でも、何かあったら、B社さん(=私の所属会社)には迷惑を掛けませんので。」

ということをノラリクラリ言われて、結局、契約書上、何のリスクヘッジも出来ずに取引をしているケースが多々あります。

「じゃあ、そんな提案は断ればいいじゃないか」とお思いかと思いますが、従来から取引のある大口の顧客から上記のような依頼を受けるケースが多く、大口顧客の心証を害することは出来ない、という事情もありますし、今回、顧客に恩を売っておけ、他の美味しい案件を貰えるか、という淡い期待もあります。また、さらに、目に見えない品質保証責任リスクはあるものの、一応取引額、粗利額はUPしますので、当社の営業担当としては、上記のような取引の打診は拒否し難いというところがあります。

上記はなかなか難しい問題ですが、割に合わない品質保証責任は免責するか軽減する方向で何とか契約書を取り交わして、取引を開始するよう対応したいところですね。

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有償支給取引とリベートの会計処理について(書籍:「業種別会計シリーズ 卸売業」)

今般は、新日本監査法人が出している、「業種別会計シリーズ 卸売業」という本を読んでみました。この業種別会計シリーズは、「業種ごとの業界動向、事業の特徴、会計や監査上の留意点、業務の流れと内部統制のポイント」を解説した本です。

本書は、経理部門や会計事務所に勤務している人向け、というわけでもなく、一般的なビジネスパーソンをも対象とした内容となっており、本書を読むのにさほど細かい会計知識は必要ありませんので、「会計知識は身に付けたいけど、専門書は敷居が高くて」という方は、自身が所属されている業界のシリーズを手に取って、読んでみてはいかがでしょうか。

さて、本書で個人的に参考になった個所は2点ありまして、有償支給取引とリベートの会計処理について解説した箇所です。

日本の会計基準では、有償支給取引において、一定の条件を満たせば、有償支給先に対する部材の販売時に売上を計上し、さらに、有償支給先から加工品を買い上げて、顧客に販売する際にも売上を計上することが出来、ダブルで売上を計上することが出来ます。

一方、IFRSでは、

<以下、本書抜粋>
企業は物品を販売し、同時に、その物品を後日、買い戻すという契約を結んで、その取引の実質的効果を打ち消すことがあるが、このような場合、二つの取引は一体として取り扱われる。
<抜粋終了>

ということで、有償支給先への部材の販売時点では、売上を計上出来ないことになるようです。

私の所属会社では、有償支給取引、いわゆる「いってこい」の取引において、有償支給先への部材の販売時に売上を計上しているケースがありますので、IFRSを適用するとなると、会計上の売上高が大きく減少するので影響大ですね。

IFRSといえば、収益認識基準がクローズアップされがちですが、今後は、他のポイントにもアンテナを広げて情報収集していきたいと思います。

有償支給取引に限らず、「IFRS導入が卸売業に与える影響」については、新日本監査法人のHPの下記ページに掲載されておりますので、ご興味のある方はご参照下さい。
http://www.shinnihon.or.jp/services/ifrs/issue/ifrs-industries/wholesale.html

また、本書で参考になったもう1点目は、リベートの会計処理です。
少し長いですが、該当部分を以下に抜粋させて頂きます。

<以下、本書抜粋>
リベートの表示科目については、財務諸表等規則72条および財務諸表等ガイドライン72-1-2が参考になる。同ガイドラインでは、「一定期間に多額又は多量の取引をした得意先に対する売上代金の返戻額等の売り上げ割戻」は、売上値引として売上より控除することが求められるが、実務上は、(1)売上から控除する処理、(2)販売費とする処理の両方の処理が行われている。
これは、リベートの内容が値引きとしての位置づけであるのか、販売促進費としての位置づけなのか、各社の判断によって異なっているからである。

例えば、販売数量との関連性の強い「達成リベート」「価格補償リベート」等は売上高から控除する処理が採用され、一方で、得意先が支出したキャンペーン費用や出店費用等を補填するリベートの場合には販売費として処理する方法が採用される事例もある。
<抜粋終了>

ということのようです。

営業担当から、ボリュームディスカウントに関する覚書を作成して欲しい、と言う要望を受けた場合には、上記の会計処理方法を理解していないと、実務と合わない契約書を作成してしまうかもしれませんので、留意しておきたいところですね。

売上と粗利が営業担当の評価で重視される職場では、リベートは出来れば販売費で処理したい、というインセンティブが営業担当に働きますが、その辺は、契約書の初期の打ち合わせで、法務担当から正しい処理方法を伝えて、変な期待を持たせないようにしたいところですね。

ちなみに、リベートの会計処理についても、新日本監査法人のHPの下記ページに掲載されておりますのでご参照下さい。

http://www.shinnihon.or.jp/misc/search/result.html?cx=009842784674593943437%3Acaiv2jc5yxy&cof=FORID%3A11%3BNB%3A1&ie=UTF-8&q=%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%AE%E8%A1%A8%E7%A4%BA%E7%A7%91%E7%9B%AE

上記箇所に限らず、太っ腹ながらも、本書に記載されている内容については、新日本監査法人のHPで解説されていることが多いようですので、会計上、気になることがあれば、まずは同法人のHPを検索してみてもいいのかもしれません。

業種別会計シリーズ 卸売業業種別会計シリーズ 卸売業
(2011/07/08)
新日本有限責任監査法人卸売業研究会

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書籍:「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」

一時期、本屋で平積みされていることの多かった、伊賀泰代氏著作の「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」と言う本について、以前から図書館で予約をしていましたが、ようやく私の番が回ってきましたので、読んでみました。

本書では、マッキンゼーが採用の際に重要視している「リーダーシップ」について書かれています。

著者は、リーダーシップとは、組織の長や管理職だけが持っていればよいものではなく、社員一人ひとりが持つ必要があり、また、リーダーシップのある人とは、「自分の主張を押し通そうとする強引な人」というイメージがありますが、そうではなくて、「自説が採用されること」よりも「成果を出すこと」を優先する為、リーダーシップのある人がたくさん集まっても、「船頭多くして船山に登る」ということにはならないと主張します。

マッキンゼーのように、役職員みんながリーダーシップのある職場であれば、例えば、会議で言いたいことがあっても、周りの顔色を窺って発言しない人、人の意見に対する文句や評論ばかり言うけど自分の意見は言わない人、アイデアは色々出すものの、そのアイデアを現実にさせるべく汗は流さない自称アイデアマンは淘汰されていくでしょうね。私の職場に、毎回、極論ばかりで、建設的な意見は言わずに会議の進行を妨げる人がいますが、彼にもリーダーシップを持って会議に臨んで欲しいものです。もう手遅れかもしれませんが・・。

そういう私も、まだ管理職ではないこともあり、これまでリーダーシップを意識しないで仕事をしてきましたが、明日から留意して仕事に臨みたいと思います・・。

<目次>
序章 マッキンゼーの採用マネジャーとして
第1章 誤解される採用基準
第2章 採用したいのは将来のリーダー
第3章 さまざまな概念と混同されるリーダーシップ
第4章 リーダーがなすべき四つのタスク
第5章 マッキンゼー流リーダーシップの学び方
第6章 リーダー不足に関する認識不足
第7章 すべての人に求められるリーダーシップ
終章 リーダーシップで人生のコントロールを握る

採用基準採用基準
(2012/11/09)
伊賀 泰代

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株主総会に係る登記はもうお済でしょうか。

先月、株主総会を開催した会社が多いかと思いますが、無事、株主総会に係る登記申請はお済でしょうか。

今年の株主総会の集中日である6月27日に開催した会社は、2週間後の今週金曜日が登記期限となります。2週間の期限が過ぎた場合、過料の制裁を受ける可能性がありますが、裁判所から送付される過料の通知は、「会社宛」ではなく「会社の代表者個人の住所」に届き、代表者個人が過料を支払わなければならないようです。

その為、管理部門内で過料をこっそり処理することは出来ず、登記手続きを怠っていたことが代表者にバレて怒られることになりますので、気を付けましょう。実際には、1日2日登記が遅れた位では過料は課されないみたいですが、法定期限以内に登記していないという記録が登記簿に残ってしまい、ちょっと恥ずかしいことになりますので、しったり対応したいものですね。

私の所属会社は、なんとかギリギリ法定期限無いに登記申請を終えました。

ちなみに、株主総会前にはリハーサルを実施したのですが、社外取締役の方が複数不在だったので、私の他、何名かが(あえて具体的な人数は書きませんが・・)、社外取締役のダミーとして取締役を演じました。

入場から退場までの一連を流しでやりまして、株主からの質疑応答の練習もしたのですが、当社の証券代行会社の担当からは、本物の社外取締役が不在であることを知ってか知らずか、「全ての社外取締役に回答して欲しい」という前提での質問が出ました。

他の社外取締役のダミー役の方(←なぜか、かなり偉い人がダミー役に)が、「今回は社外取締役がご不在なので、回答は控えます。」とでも言ってくれればよかったのですが、なぜかそれらしい回答をしてしまったので、ダミーの私にも回答が回ってくるではありませんか・・。

なお、例えば、株主の方の質問が、「御社の雛形基本契約書に貼付する印紙の金額について」というような、いつも受けている質問であれば、私はとうとうと自説を展開出来たのですが、(あえて具体的な質問内容の記載は控えますが、)一社員である私が、普段、全く考えていないような&そんな質問出るか~?というような質問が出まして、私の番が来るまで脳をフル回転させて色々考えてみたものの、全く引き出しが見つかりませんでした・・。

株主総会の事務局席に座っている複数の同僚や上司からは、「あいつはどんな回答をするのかな」とニヤニヤ見つめられる中、しかたなく、真っ白な状態で答弁台に立ち、結局、答えになっていない回答をして撃沈しました・・。特に怒られたりはしませんでしたが、おかげで、総会リハーサル後、暫くの間、私は「取締役」と呼ばれていました・・。

来年はダミー役は何としても避けたいところですね。

以上、特にネタがなかったものの、週一は更新するという目標がありますので、蛇足を書いてみました。
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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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