製造物責任条項の必要性(その2)

先般読んだ、ビジネス法務(2016年9月号)にて、駒澤総合法律事務書 弁護士 高橋郁夫氏著作の「連載 デジタル証拠実務のための技術と法 紛争時に問題となる曲面 」という記事があり、その中で、官公庁調査(自動車リコール)における事実調査について記載された箇所が心に留まりましたので、その箇所を以下の抜粋させて頂きます。


また、米国においては、国家交通並びに車両安全法(National Traffic Motor Vehicle Safty Act)は、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に不具合情報を収集・分析する機能を与えている。これらの過程においては、製造業者等が誠実に不具合情報を収集し調査に協力することが当然の前提となっており、これに反する虚偽の情報提供や隠蔽に対しては、強い制裁が課されうる。



国や業界に限らず、PL事故や事故の恐れが発生した場合、行政からの要請に従わない場合、制裁や勧告を受けてしまうことになる中、こちらとしては情報提供に協力したいものの、特に当社のような専門商社の場合、手元に詳しい技術資料が無い中、サプライヤーからの情報提供協力が受けられない場合、適時・十分な情報提供が出来ず、行政からは、情報を隠蔽していると思われる可能性があります。

なお、当方が買主側の立場で基本契約書について交渉していて、製造物責任条項について平行線になった際、「製造物責任法があるのだから、製造物責任条項は無くてもいいのではないか」という意見が、当社の営業担当から出ることがあります。

製造物責任条項の必要性については、2015年12月13日付の「日本のPL法では、逸失利益も補償の対象となる件について」という本ブログの記事にて、補償の観点から記載しましたが、その他の意義としては、当社が顧客に納入した製品・部材に起因して、万一の事故・事故発生の恐れが出た際に、製品・部材のサプライヤーに対して情報提供・調査協力義務を課す意義が挙げられます。


製造物責任法は全部で6条しかない短い法律であり、製造業者等の損害賠償の責任しか定められておらず、行政調査に対する情報提供・誠実な協力義務については定められていません。

その為、上記協力義務を定めた製造物責任条項をサプライヤーと契約書で取り交しておかないと、サプライヤーに不利な情報であればなおさら、「お宅に情報を提供する義務は無い」と言われて、十分な情報収集が出来無いケースが想定されます。

上記のような契約書を取り交したからといって、契約通りに対応してくれない可能性はありますが、何も法律的な根拠が無いよりは、協力義務違反による損害賠償請求をちらつかせて、協力を要請することは出来ますので、以前の記事に記載した「補償」と「情報提供・協力義務」という観点から、サプライヤーとの基本契約には、製造物責任条項はしっかり定めて取り交したいものですね。
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(インドネシア語での契約を義務付ける)Law No 24 of 2009を意識した言語条項のご紹介

インドネシアの「National Flag, Language, State Symbol and Anthem」に関する「Law No 24 of 2009」という法律により、インドネシア人やインドネシア法人が契約書を締結する場合、インドネシア語で締結しなければならない、というのは、インドネシア関連の取引のある会社の法務担当であればご存知の方も多いかと思います。

上記法律に関する解説、判例等がベーカー&マッケンジー法律事務所のニューズレター(2013年12月号)に掲載されておりますので、まだ上記法令についてご存知ない方で興味のある方はご参照下さい。
http://www.bakermckenzie.co.jp/material/dl/supportingyourbusiness/newsletter/corporatema/Newsletter_201312_AsiaFocusGroup_J.pdf

上記法律があることから、両当事者の共通言語が英語の場合でも、英語版とインドネシア語版を一緒に締結したり、インドネシア語を併記した契約書を締結することが実務上、行われております。

今般、私が所属している会社のインドネシア子会社と、インドネシア外の某日本法人企業との某契約書(英語版:先方書式)をチェックしていた際、契約締結時にはインドネシア語版の契約書は作成・締結せずに何とか切り抜けよう、という趣旨の「言語条項(Language)」が定められており、一つの参考になりましたので、以下にその概要をまとめておきたいと思います。

※契約条項は原則、著作物では無いので、そのまま本ブログにコピペしても著作権法的には
 問題無いのかもしれませんが、後で私の会社が特定されて、某企業にお叱りを受けるのも難なので、
 上記条項の骨子のみをまとめておこうと思います。。

<言語条項(Language)の骨子>
1.本契約は英語で締結する。

2.当事者A(=当社のインドネシア子会社)は、「National Flag, Language, State Symbol
  and Anthem」に関する「Law No 24 of 2009」に基づき、本契約(英語版)を
  インドネシア語に翻訳して締結することを求めておらず、本契約の言語(英語)、
  契約内容について完全に理解していることに同意する。

3.両当事者は、本契約(英語版)がインドネシア語に翻訳して締結されなかったことを理由に、
  本契約の無効を主張してはならない。

4.もし、インドネシア政府等が、インドネシア語版の契約書を作成するよう
  要請してきた場合、両当事者は双方協議の上、速やかにインドネシア語版の
  契約書を作成する。
  上記翻訳の費用は、当事者A(=当社のインドネシア子会社)が負担する。。

5.上記4.の場合で、英語版とインドネシア版の内容に相違が生じた場合、英
  語版の内容が優先されるものとし、インドネシア語版の内容は、
  英語版の内容と同一内容に変更されたものとして解釈される。

6.インドネシア語版の契約書を作成した場合、当該契約書は、
  英語版の契約書の締結日に遡及にて適用される。

<以下、hitorihoumuのメモ>
※上記骨子2.が、インドネシア語以外の契約言語に疎いインドネシアの
  契約当事者を保護する、という上記法令の趣旨を意識した条文と思われます。
  
  ただ、実際、インドネシアでビジネスされている方は英語が流暢な方が多いので、
  そもそもこの法令は必要なのか、というのはありますが、
  英語が出来無い、弱い立場の現地消費者等を保護する、という意味では、
  存在意義はあるのかもしれません。

※上記契約では、準拠法を「日本法」、「紛争の解決方法」を「日本東京における仲裁」と
  定められておりました。
  上記仲裁に基づいて、日本法人である某社に対して強制執行を実施するのであれば、
  契約書の言語が英語版だけでも、日本の裁判所の執行判決がおりないことはないかと思います。

  ただ、上記ベーカー&マッケンジー法律事務所のニューズレター(2013年12月号)でも
  解説されている通り、上記仲裁に基づいて、インドネシア法人(当社子会社)に対して
  強制執行を実施する場合、インドネシア言語ではない言語で締結された契約書に基づく
  仲裁判断は無効なので、インドネシア裁判所としては執行判決を出せないとの結論が
  出る可能性があります。そこで、上記骨子4.も一応定めているんでしょうね。

※上記ベーカー&マッケンジー法律事務所のニューズレター(2013年12月号)には、


  「(英語版とインドネシア語版の)両者を準備した場合で、不一致があった場合に英
   語を優先させるとの優先条項の有効性については、明確な結論が出されていない。
   しかし、英語を優先させるとの合意が直ちに無効となるとは考えにくいため、
   いずれの言語が優先するのかを明示する。」

   (注)上記(  )は私が追記



と記載されています。

 上記条項骨子5.の有効性については不明のようですが、どちらの言語が優先されるのか、
 後日、解釈の相違が生じても難なので、明確にしておきたいところですね。

<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
・取引スキーム別 契約書作成に役立つ 税務知識Q&A
 森・濱田松本法律事務所 税務プラクティスグループ (編集)
・キタミ式イラストIT塾 ITパスポート 平成28年度 単行本(きたみ りゅうじ氏著作)

※ふと、ITパスポートの資格を取ろうかと思い、上記書籍を一応全部読んでみましたが、
  どうもやる気にならず、結局、資格取得を目指すのは止めました。
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41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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