部門別資本効率の評価の難しさに関する一考察

1.書籍:「ドキュメント 会計監査12か月〈PART1〉山中氏のつぶやき」

今般は、普段、接する機会のある監査法人の先生方の気持ちを知ることが出来るかなということで、「ドキュメント 会計監査12か月〈PART1〉山中氏のつぶやき」という本を読んでみました。本書は「週刊経営財務」の上記連載記事を書籍化したもののようです。

2009年12月出版と約10年前の本なので、出てくる話題や法令名について所々、時間の経過を感じるところがありますが、法令や会計基準等が変わっても、先生方の気苦労の本質は今も昔もあまり変わらないのだなと思いました。



2.部門の資本効率の評価

本書では、「固定資産の減損に係る会計基準」の導入により2006年3月期から強制適用となった減損会計に関して、会計士とクライアントの会話のやり取りが出てきて心に留まりましたので、以下の通り抜粋させて頂きます。下記はクライアントの経理責任者の一言を抜粋したものです。


「どうですかねえ、実際にものすごい簿価の固定資産を抱えて『効率が悪い』と言われてきた部署にとっては、自分のせいでそうなったわけでもないのに、という不安があったでしょうね。それが基準の適用で身軽になれば、やっとフェアに評価して貰える、という思いはあるでしょうね。」



減損会計が適用されて、固定資産が適正値に減額された結果、営業部門の評価指標である資本効率がUPして営業部門としても良かったと歓迎している話が取り上げられています。

資本効率の重要性が叫ばれてまだ間もないと思いますが、ずいぶん管理レベルの高いクライアントですね。もしくは、私の所属会社が遅れていただけで、業界によっては資本効率の評価・管理は10年前から既に一般的な話だったのでしょうか・・。

ちなみに、私の会社では、近々、営業部門別ROIC等の資本効率を管理指標として導入することを検討しております。

なお、資本効率を計算する上で分母に固定資産は含めるかどうかは考えどころですね。
部門間の資本効率を比較するのであれば、「オフィスを自社保有している営業部門」と「賃貸でオフィスを借りている営業部門」がある場合、分母に固定資産を入れると、減損会計が適用されて適正な簿価になっていたとしても営業部門間で不公平感が出ると思います。

また、分子を営業利益とする場合、同じように「オフィスを自社保有している営業部門」と「賃貸でオフィスを借りている営業部門」とで、「固定資産の償却費等」と「オフィスを借りた場合の賃貸費用」を単純比較出来ない結果、不公平感が出る場合があるかと思います。



3.グループ会社間の支払条件が資本効率に与える影響

資本効率の公平性についていうと、グループ会社間の支払条件が運転資金(売掛金、買掛金)に与える影響を考える必要があるケースがあります。

グループ会社間の支払条件が全て同一(例えば「月末締め翌月末払」に統一しているということ)であれば分かりやすいのですが、海外子会社の資金繰りを助ける為に、例えば日本の親会社の子会社に対する支払い条件は「月末締翌月末払い」と短いサイトである一方、小規模の海外子会社(例えばS社)の日本の親会社に対する支払い条件は「月末締120日後払い」と長めに設定する運用をしている会社もあるかと思います。

そうすると、「上記子会社(S社)にモノを販売している日本の営業部門」と「海外子会社からモノを購入して日本の外部顧客にモノを販売している営業部門」で、売掛金、買掛金に係る運転資金に不公平感が生じるケースもあるかと思います。

「会社方針として、海外子会社S社に長めの売掛サイトを設定しているから我々の部門の資本効率が悪いのであって、それを我々の努力不足にして貰っては困る」と考える営業部門も出てくるでしょうね。

支払条件が会社方針でグループ間にて不統一の場合に、資本効率を管理指標として導入するのは、不統一の支払い条件を前提に資金繰りを組んでいる会社がある中、なかなかハードル高いですね。



4.まとめ

間接部門経費の配賦基準等も含め、100%納得感のある評価基準を設けることは難しいですが、下記記事でも書いた通り、少しでも営業部門の納得感の得られるように評価基準の策定を進めていきたいと思います。

せっかく資本効率を管理指標に追加したのに、コーポレート部門の自己満足で終わっては意味がないですからね。


書籍:「ROIC経営 稼ぐ力の創造と戦略的対話(KPMG FAS (編集)、あずさ監査法人 (編集))」を読みました。
http://hitorihoumu.blog47.fc2.com/blog-entry-666.html



<本書で心にとまった一文>
「偉くなって現場を離れた関与社員が犯すミスの一つだと思うが、本人にミスを犯した、という気はサラサラない。(中略)いかにも自分が会社のことを良く知っているかのように振舞うのは結構だが、事前のこちらの説明もろくに聞かず、この期に及んで点数稼ぎみたいなことをしないでくれ。
そうは言っても、身内の恥を放置するわけにもいかない。」

[hitorihoumuメモ]
気づいたらこんな人になっていたとならないようにしたいと思います・・。

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
改訂2版 経理・財務スキル検定(FASS)テキスト&問題集
(CSアカウンティング (編集))

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
図解&ストーリー「資本コスト」入門(改訂版)
(岡俊子氏著作)

[本書で参考になった内容]
・税引後営業利益の計算式から、当該利益が
債権者や株主へのリターンへの原資となることが分かる

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
令和の中学受験 保護者のための参考書

・保護者は我が子の中学受験に対してのめり込み過ぎではいけない。

・第一志望校を目指しつつも安全校を含めた受験パターンを組んで、
「結果」を出してあげるのが親の務め。

・我が子が第一志望校に不合格になったとしても、保護者が引きずったり、
落胆した姿を見せてはいけない。
受験が終われば家族で総括の時間を作り、労いの言葉を掛けてあげなければならない。
我が子の中学受験に終止符を打てるのは保護者しかいない。

[hitorihoumuメモ]
大学受験の場合は、子供が自分である程度の判断出来ますので、受験の有無、学校選びは子供の意思で行う度合いが強いかと思います。
しかし、中学受験の有無、学校選びは保護者の意向(エゴ)による度合いが強いと思いますので、いざ受験を目指したものの、保護者の作戦が不十分な結果、子供に劣等感を植え付けて、自尊心を低下させただけの受験で終わることの無いよう、のめり込み過ぎない程度に、しっかり作戦を立てて、一緒に伴走していく姿勢が必要ですね。

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ワークフローの導入を検討する場合は、まずはフロー自体の棚卸をすべし 他1本です

1.ワークフローの導入を検討する場合は、まずはフロー自体の棚卸をすべし

今般は、「CFOのためのIT利活用の強化書(あずさ監査法人)」という本を読んでみました。

早速ですが、本書で参考になった箇所を抜粋させて貰います。


データ構造の最適化や業務の標準化を行わないままRPAを導入すれば、非効率なデータ処理や業務処理が反復されることになる。



従前から実施してきた合議、承認、決裁記録の取得が今の環境においても本当にすべて必要といえるのかを吟味することが重要である。

(中略)

日本企業では社内の慣習として合議、多数決など複雑な承認経路を経た承認、決裁を行っている企業も少なくない。ワークフロー製品には、そのような複雑な承認経路の制御に対応したものも多いが、非常に複雑な承認経路の存在は、選定しうるワークフロー製品の幅を狭める可能性があるとともに、導入後のマスタメンテナンスなどの煩雑化、業務負荷の増大にもつながりかねない。

 そのため、ワークフローシステムの導入・活用にあたっては、まずは自社内で必要とする承認フローの棚卸と、簡素化に向けた再整理こそが重要となる。



上記はその通りですね。

現在、当社ではワークフローの導入を検討しており、いくつかのワークフロー製品のトライアルを実施しています。

現在はエクセルやワードで各種申請書類を作成してプリントアウトし、紙で回覧していた運用をワークフローへの移行を検討するにあたり、当初は、今のエクセル・ワード書式の体裁(見た目)をそのまま再現できるワークフロー製品が良いと考えていました。

エクセル・ワードの申請書をPDF化し、ワークフローソフトのフォーム作成画面に貼り付けて、従来と変わらない体裁でワークフローの申請が出来る機能のある製品を検討していました。

しかし、今の書式の体裁は必ずしもベストとは限らず、とりあえず回覧しておこうということで回覧ルートが長くなったり、複雑な経路になっている申請書もあります。また、今の申請書フォームの体裁に固執するとワークフロー製品上で電子フォームを作成する手間が大きすぎるので、ワークフロー製品が既存で持っているフォーム書式を極力活用することも念頭に、今回のワークフローの導入検討を機に、そもそもの申請承認フローの棚卸、簡素化を検討しています。

紙をただ電子化しただけでもペーパーレスとなるメリットはあるかもしれませんが、承認スピードはさほどUPしないのでは宝の持ち腐れですからね。

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2.連結会計時の未達取引の調整方法(「売上原価対立法」的考え方に基づく違和感の溶解)

今般、「連結精算表から理解する連結会計入門(吉田 剛氏、植野和宏氏著作)」という本を読んでみました。

これまで連結会計に関する基本書、入門書をいくつか読んできましたが、「未達取引の調整」を解説した本は(私の記憶が正しければ)これまで無かったか、あったとしても説明の量が足りなかったと思うので、今回、改めて参考になりました。

本書P43に、未達取引を調整する際の修正仕訳例が記載されていましたので以下の通り抜粋させて貰います。
(便宜上、本書に記載の前提条件の記載を省略して仕訳例だけ記載します。詳細を知りたい方は本書P42を参照ください。)


[連結仕訳]
<個別修正仕訳(未達取引の調整)>

(借)売上原価(仕入高)  (※3)700 (貸)買掛金      (※3)700
(借)商品           (※4)700 (貸)売上原価     (※4)700
                           (期末商品棚卸高)

(※3)700・・・・・前提条件③参照
(※4)700・・・・・未達取引として仕入計上しているため棚卸資産に振替え



なお、以前、本ブログにて、「棚卸資産に含まれる未実現利益の連結消去仕訳に関する個人的な違和感」という記事にて、「売上原価対立法」に基づいて売買取引を記帳している会社(私の所属会社を含む)としては、「売上原価」勘定で未実現利益の消去を行うことに違和感があると記載しました。

同様に、私が約2年前に経理部門に異動後、初めて未達取引の調整仕訳を入れた際、「売上原価対立法」的な頭で考えると、未達取引の調整時に「売上原価」勘定で調整することに当初、個人的に違和感がありました。

素人考えでいえば、未達取引の調整であれば、下記仕訳一本でいいのではないかと思った時もありました。
(下記の仕訳では売上原価勘定が出てこないので、連結消去出来ないのでダメですが)


(借)商品       700   (貸)買掛金       700
  

しかし、本書の上記解説のように、「未達取引として仕入計上しているため棚卸資産に振替え」る為に、「売上原価(仕入高)」、「売上原価(期末商品棚卸高)」で調整していると考えると分かりやすいですし、腹落ち出来ますね。違和感を持っていたのは私だけかもしれませんが・・。

当時は、連結会計では「売上原価」勘定で調整するものという説明を受けて、そういうものかと自分を納得させてましたが、上記のようなレクチャーが当初にあれば個人的に理解が進んだのになと今、ふと思いました。

[その為、本書で心に留まった解説内容]
連結修正仕訳によって生じた将来減算一時差異がどの会社に帰属するものかを適切に判別した上で、会社毎に個別財務諸表における将来減算一時差異と合算し、繰延税金資産の回収可能性を判断していく必要がある。

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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