監査法人に質問を丸投げするのではなく、自社の意向を伝えた上で協議に持ち込むべし。

1.監査法人に質問を丸投げするべからず

私は経理部門に所属しており、内部監査部門によるJ-SOX対応について監査を受ける立場になる為、今回改めて、内部統制制度について理解を深めようと「今から始める・見直す 内部統制の仕組みと実務がわかる本」(浅野 雅文氏著作)という本を読んでみました。

本書を読んでいて、「ああ、有れは、こういう考え方に基づいてああいう実務になっていたのか」という気づきが得られて、これまで点と点で把握していた知識が繋がる感触もあり、個人的にな色々と参考となる本でした。

早速ですが、本書で心に留まった箇所を以下の通り抜粋させて頂きます。

下記は「第3節 内部統制対応成功のための5つのポイント」と題したテーマの内、5つのポイントの内の1つを解説した箇所の一部抜粋です。


(2)あくまで「会社主導」であること

内部統制対応を上手く進めるために重要な次のポイントは、監査法人対応です。ここで絶対にしてはならない監査法人とのコミュニケーションの取り方があります。それは、会社自身が具体的な意見のないまま、「先生、どうしたらよいでしょうか?」という丸投げの質問をすることです。丸投げの質問をしてしまったが最後、監査法人は取りうる選択肢が複数ある場合でも、最も「理論的な対応(あるべき対応)」をするよう貴社に提案してくるでしょう。

しかしながらその方法は、必ずしも貴社にとって効率的な方法であるとは限りません。最も保守的(面倒)な方法である可能性があるのです。


上記はまさにその通りですね。内部統制対応に限らず、会計処理の方法等を監査法人に相談する際、自社側でこうしたいという意見・見解を何も持たずに丸腰で相談した場合は、教科書的な回答しか得られず、その回答通りに対応することにした結果、自部門・営業部門に過大な負荷を掛ける結果となる場合があります。



2.教科書的なフローでないが、監査差異にならなければOKという選択肢もあり

上述の通り、監査法人のいう教科書的な対応が特段の負荷の無く出来るのであればそれが一番ですが、場合によっては、監査法人どおりに対応すると営業部門や管理部門に過大な対応負荷が発生する場合があります。


(1)ケース1
例えば、貿易条件がDグループ(DAP、DDU)の取引の場合、モノが相手方に着荷してからリスクが相手に移転する中、従来は便宜上、BL日(船積日)で売上を計上していたものの、「リスクの移転日」=「モノの支配の移転日」という推定のもとで、モノが相手方に着荷したことを先方のサインバック等の書面で確認してから売上を計上すべきと監査法人から指摘を受けたとしましょう。何やらケースが妙に具体的ですが、あくまで仮の事例です。私の所属団体とは関係ありません・・。

この場合、上記を忠実に実行しようとすると、モノを納入する都度、サインバックの書面を即時に受領する手間が自社及び販売先に生じることになります。場合によっては、取引先は面倒だからイヤだと回答してくるところもあるでしょう。

私が所属している専門商社にありがちなパターンとして、「そんな面倒なことを言ってくるのであれば、他の商社に調達窓口を切り替えようかな。商社なんていくらでもいるんだし、御社ではなくても問題ないのね」というネガティブな回答が返ってくる可能性もあります。

こんな時は、営業部門の業務フローの大幅な変更による負荷の増加、取引先とのビジネス喪失リスクをなるべく避ける為、教科書的な方法ではないものの、期ズレが起きなければいいのでないかということで、売上の計上は従来通り、BL日で計上しておいて、期ズレになる可能性のある月末付近の出荷分のみ、着荷のエビデンスを入手して、当月内にBL日で売上を計上したものの内、当月内に着荷しなかった部分は経理部門で会計上、調整(売上の取消処理)を行うことで正しい決算数字となるように対応するのはどうか、監査法人に提示してみる選択肢もあるわけです。



(2)ケース2
同じようなケースとして、通常、CIFやFCAで取引している取引であっては、納期によってはメーカーから直接、販売先にモノを出荷することになったということで、営業部門の判断でスポット的に「Dグループ条件」(DAP等)で取引することになったというケースがあるとします。何やらケースが妙に具体的ですが、あくまで仮の事例です。私の所属団体とは関係ありません・・。

上記のような状況がある中、全てのDグループ条件の取引を経理部門で補足して調整することは困難というという場合もあると思います。

その場合は、監査差異とはならない金額を監査法人に事前に確認した上で、その金額に収まる範囲となるように上記のような調整を行う営業部門の範囲を絞ることでOKを貰う選択肢もあるわけです。



(3)ケース3
他のケースとしては、同じように新しい収益認識基準関連でいうと、将来のIFRSの早期適用を念頭において、例外的な取り扱い(日本国内取引は出荷基準を採用してもOK)を選択せずに、着荷基準で売上を計上するという原則的な会計方針を適用したいというケースがあるとします。何やらケースが妙に具体的ですが、あくまで仮の事例です。私の所属団体とは関係ありません・・。

ただ、上記建付けとするものの、仮に期末付近の売上を従来通りに出荷基準で計上したとしても、監査差異にならない範囲であることを事前に監査法人に説明をして合意を得た上で、従来通り、実務上は出荷基準ベースで売上を計上するフローから変更しない方法を採用する選択肢もあるわけです。





3.まとめ

内部統制部門、経理部門としては、監査法人の言いなり?になって営業部門だけでなく自部門の首をしめることのないよう、監査法人に対応方法を丸投げ質問するのではなく、自社の方から、内部統制上のコントロールが出来ていると言えて、さらに監査差異とはならない範囲に収まるので、「この業務フローで進めたいけどどうか」と自主的に提案するスタンスで相談を進めるよう心掛けたいものですね。



[その他、本書で参考になった内容]
・注意すべきは、下手な内部統制が社内に組み込まれることにより、また過剰な内部統制対応を現業部門に強いることで、上場している限り半永久的に自社の事業の足かせになってしまい、ビジネススピードが大幅に失速して莫大な機会損失を生みかねないこと。

・監査法人は内部統制の有効性自体を監査するわけではない。監査法人による監査の対象は、あくまで、経営者による内部統制評価の結果である「内部統制報告書」の記載内容に虚偽が無いかを評価すること。

・内部統制報告制度では、「財務報告の信頼性」に関する内部統制のみを評価対象としている。

監査法人等は、企業が内部統制報告制度に対して過剰に対応している分には業務を減らせとは言わない。作成された報告文書の内、監査に必要なところだけ見ている。その為、対応の簡素化の為に、評価範囲や識別しているリスク、対応するコントロールについて、自社で適切な量となるよう検討して適宜、見直すことも必要となる。

・評価範囲を最小化することにより、内部統制地獄から抜け出すべし。その為に、まずは全社的な内部統制を「有効」にすることが最低限の前提条件。

・重要な事業拠点の選定は、評価対象とすべき事業拠点を売上高等の重要性によって決定する(実施基準Ⅱ.2.(2)①)。
上記一例として「連結ベースの売上高等の一定割合を3分の2程度」という選定方法が例示されている。


[hitorihoumu]
来期から収益認識基準が適用されますが、本書P111にも解説されていますが、当社の監査法人の先生によると、これまで通り、全てグロスで売上高を算出して評価範囲を決定するのではなく、代理人取引についてはネットした売上高で計上した上で重要な事業拠点を判定する必要があるようです。

当社も上記例(3分の2基準)に基づいて重要な事業拠点を選定していますが、代理人取引と判定した取引については従来の計上基準と比較して売上高がぐっと減少することになりますので、その結果、重要な事業拠点の範囲を変更する必要が出てくるかもしれませんね。
面倒くさいな・・orz



・基準では、内部統制評価の結果、発見された不備の重要性の基準値として「連結税引き前当期純利益の5%」を例示している。

・内部統制報告制度のために既存の社内資料を用いた場合、評価範囲(文書化範囲)が課題になったり、漏れが生じる危険性が高いので、かえって大変となるからおすすめ出来ない。

・現場担当者の「言っていること」と「やっていること」が違うケースが多く存在する。その為、一連の業務に関するエビデンスのサンプルを入手して、業務記述書の内容と合致しているかを確認した上で、相互参照出来るように関連づけておくべし。

・財務報告の観点から、社内ルール通り業務を実施しているかが、必ずしも「あるべき姿」ではない点に注意が必要。財務報告リスクが合理的な水準まで低減できるよう、適切に対応出来ているということが業務フローの「あるべき姿」

・内部統制報告制度はあくまでリスクのマネジメントにある。どのようなリスクがあるか?そのリスクは何かしらのコントロールによってカバーされているか?が思考回路の順番。

コントロールが無いからリスクがあるのではなく、リスクがあるからコントロールによってリスクを低減すべき、というという考え方が正しい思考回路となる。

・内部統制にITを組み込んだから財務報告リスクが無くなり、内部統制評価が不要となるわけではない。マニュアル統制であっても自動化されたIT統制であっても、財務報告リスクを低減するための手段であることには変わりはない。

・ハンコがなくても、別の手段でコントロールの実績を証明することができれば、ハンコにこだわる必要はない。

・内部統制が有効であるということは、内部統制全体に「重要な」不備が無いことを意味している。

・業務プロセスで発見された個別の不備と比較して、全社的な内部統制の不備が「開示すべき重要な不備」ではないことを証明することのハードルは非常に高い。その為、全社的な内部統制に関しては絶対に不備を残さないことが最低条件となる。



[蛇足]
本書のアマゾンレビューを見たところ、24名の方が本書の内容をレビューしており、高い評価をしているほとんどの方が、本書だけしか過去にレビュー歴が無い方でした。

ただの偶然かもしれませんが、もしかしたら、本書の出版社の方等が、本書のレビュー用にアマゾンのアカウントを作成して、ステルスマーケティングを仕掛けているのかと思い、当初、本書を手に取るかどうか悩みました。しかし、結果としては個人的には学びの多い本となりました。

本書のアマゾンコメントがステマかどうかは分かりませんが、一般論として、ステルスマーケティングを仕掛けることでかえって、潜在的な読者層を遠ざけているかもしれないということは、売り込む会社、マーケティング部門の方には留意頂きたいものですね。

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紙を全てスキャナーで電子化すればテレワークが可能とはいうけれど・・(書籍:1冊でわかる! 経理のテレワーク :)

今般は、「1冊でわかる! 経理のテレワーク (原 幹氏著作)」を読んでみました。

早速ですが、テレワークをする上で必要な、紙のデータ化に関する記述が心に留まった為、以下の通り抜粋させて頂きます。


取引先から「紙」の書類が送られてくる以上、管理保管するということは避けられませんが、業務処理においては信憑データとしてそれらを「紙」という環境ではなく「データ」という環境でとりまわしていかないと、テレワークにおいても処理のボトルネックとなり、スピードや生産性にも影響が出てきます。「紙」と「データ」を取り回す業務を「データ」中心に変えていくためにはお勧めの方法としては、社内外でやりとりする全ての「紙」の書類をハンドスキャナーやフラットベットスキャナーなどのスキャン機器でいったん「データ」の形式に変換してしまうことです。「データ」に返還してしまえばあとは経理処理において原紙資料が「紙」であったとしても全てデータとして取り回すことが可能になるますので大きく生産性を上げることが出来ます。



スキャンを行う手間がどうしてもかかってしまいますが、これはテレワーク導入に向けた重要な作業として日常の中に組み込んでおく必要があります。



全ての「紙」を「データ」に変換すればテレワークが可能となるというのはその通りかと思いますが、これは言うが易しで、業態にもよるのでよるのでしょうが、果たして実現出来る会社はあるのでしょうか・・。

自社が発行する請求書、注文書等を極力、電子化したり、取引先にお願いして、これまで「紙」で発行されていた書類を「データ」で提供して貰う様にする努力は必要かと思います。しかし、一定量はどうしても紙での授受となるなか、それをスキャナーで全て「データ」化するのは、少なくとも当社では大変な労力を伴います。

スキャナー業務を日々のルーティーンに取り込むことでテレワークを推進するはずが、スキャン業務をする為に出社しないといけなくなる、なんてパラドックスが発生してしまいます・・。

ただ、テレワーク出来ない言い訳を色々と言ってみても進歩がないので、「全て」データ化するかしかいかという「0か100か」の両極端な発想ではなく、テレワークし易い環境とするにはどうすれば良いか、という観点で業務の見直しを考えていきたいです。

人を管理・マネジメントする立場となった今では、テレワーク勤務は無くして欲しいというのが個人的な本音であり、これは私に限らず、(少なくとも当社の)大部分の管理職が持っている考えではあります。ただ、管理される人に社内アンケートを取った際にはテレワークを活用したいという声が大かった中、コロナ禍が沈静化してもテレワークへの社会的な流れは止まらないので、自分のマインドを今に適用させていくしかないですね・・。



[その他、本書で心に留まった、参考になった内容]
・業務データの漏洩については、「紛失することを前提とした管理」を目指す

・業務データの散逸は、クラウドストレージの活用と、メールの添付ファイルの慣習を廃止する方向で検討する。


[hitorihoumuメモ]
データの散逸防止と、メールがハッキングされて、重要な添付ファイルが漏洩するリスクを防ぐ為に、ファイルをメールに添付しないで、クラウドストレージやファイルサーバーのフォルダリンクをメールに貼って、そこからファイルを取って貰う方法も確かにありますね。

ただ、元ファイルを共有先の人が変更してしまったり、誤って削除するリスクを考えると、元ファイルとは別に共有用のファイルを別フォルダに置いて共有する必要があります。そうすると、それはそれで面倒ですし、どっちが最新のファイルか分からなくなるリスクがありますね・・。

セキュリティと利便性は相反する話とは良く言われますが、そのどこに線を引くのかが難しいですね。



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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
ドキュメント会計監査12か月〈PART2〉
―山中氏の思い ドキュメント 会計監査12か月

[参考になった内容]
・ソフトウェアの受託開発では、「年度内に予算をつかわなきゃいけないから、検収報告だしておくけど、最後までちゃんとやってね。」というやり取りは少なくない。結果、開発会社では翌期に追加コストが掛り、導入したほうでは期初から稼働していないケースが発生する。会計士としては、検収報告を信じて形式で逃げられればありがたいが、実質は別のところにあることも少なくないので、確認の手を抜くと後々、会計士の身を滅ぼすことになる。

・利益が減ると形式的な重要性の基準値も小さくなるので、監査手続きが相対的に増加する。手続きが増えると監査報酬を増やす必要があるが、そうすると、さらに利益はますます減少するというスパイラルに陥る。

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
業種別・不正パターンと実務対応
(EY新日本有限責任監査法人)

[心に留まった内容]
広範な権限のある経営層による不正が見つかった場合は、経営者による内部統制の無効化事案として、仮にその不正が少額であったとしても、当該不正の調査だけでは終わらない。

網羅性検討の観点から、より広範にわたる不正の可能性を勘案した上で、深度ある監査手続きが必要となる。

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
高速マスター 法律英単語 2100 法律・基礎編
(渡部友一郎氏著作)

[参考になった内容:「~するとき」の使い分け]
法務省の使い分けによれば

・家庭的な条件を示す場合は「if」
・発生確実な条件を示す場合「when」
・発生の繰り返しが予想される場合「whenever」

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<超個人的な備忘メモ(最近、読み終わった本)>
決算書の読み方 最強の教科書 決算情報からファクトを掴む技術
(吉田 有輝氏著作)

[参考になった内容]
・手元に多額のキャッシュを寝かせてばかりで有効活用できていないことで「資本効率」が悪くなっていることに問題があるのに、それを「事業効率」が悪いと問題点をはき違えてしまう場合がある。機械的にROICを利益率と投下資本回転率に分解するのではなく、BSの借方を見て、何が事業に投資されているのかを見極める必要ある。

・売上の大部分がモノの仕入れを伴わずに計上される業態では、CCCは利用せずに個々の回転期間を検討した方が望ましい。

・ROICが上昇している事のみを受けて「いい決算が出た」と尚早に判断するのではなく、債権が流動化されたことによる影響も検討すべし。

・「無借金」はいいことと思われがちであるが、窮地に陥ったときに救済してくれる金融機関が見つかりにくいというデメリットがある。

・ROICをベースに他社比較する場合は、それぞれの事業の特定の相違点に留意する必要がある。

・製造原価から売上原価が生まれるまでの流れ

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本当は簿記2級の受験を通じて工業簿記を勉強しようかと思うものの、専門商社勤務で直に仕事に繋がらないのでヤル気がわいてこない・・。

ただ、たまに、取引先メーカーや製造子会社の製造原価を分析する機会がある為、そろそろ重い腰を上げないとな・・。

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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