書籍:「経理になった君たちへ」を読んで

今般、Twitter等でちょいちょい目にすることの多かった「経理になった君たちへ―ストーリー形式で楽しくわかる!仕事の全体像/必須スキル/キャリアパス(白井 敬祐氏(著作))」という本を読んでみました。著者は「公認会計士YouTuberくろい」こと白井敬祐氏です。

私は約十数年間、法務担当として従事した後、財務・経理部門の責任者を経て、今では中国法人のコーポレート責任者として経理を含めたコーポレート全般を見る仕事をしております。その為、今ではどっぷり経理実務に携わる立場にはありませんが、話題の本だし、何かの参考になればと思い本書を手に取ってみました。

早速ですが、本書で個人的に心に留まった内容を備忘として書き留めておこうと思います。


[本書内容説明]
「経理部に配属されたけど何をしたらいいかわからない…」「経理の仕事って機械みたいでつまらなそう…」そんな君たちに経理の仕事の本質を教えます!経理パーソンが主体的に生きるための、経理入門書の新定番!

[目次]

第1章 経理部に配属されちゃった
  1.経理部に配属されちゃった!
  2.経理部ってどんなスキルが必要なの?
  3.え?経理部ってたくさん種類があるの?

第2章 非上場会社/会計事務所委託編
  1.経理業務を会計事務所へ委託しよう
  2.そもそも経理部ってどんな仕事するの?
  3.会計事務所に何の業務をお願いしよう?

第3章 非上場会社/単体経理編
  1.毎月決算しなきゃいけないんですか?
  2.従業員の給料を計算しなきゃ!
  3.年次決算は大忙し!

第4章 非上場会社/大会社編
  1.大会社になっちゃった!
  2.監査法人がやってきた!
  3.監査役が新設された!

第5章 非上場会社/子会社編
  1.買収されちゃった!
  2.上場企業になると決算書の種類が増えるの?
  3.子会社経理って実際何やるの?

第6章 上場企業/親会社編
  1.親会社に出向になっちゃった!
  2.経理のお客さんって誰ですか?

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1.Excelで最も重要なのは「発想力」(電子書籍 P34)

[以下、上記ページの概要]
経理の仕事を行う上で最低限、覚えないといけない関数はいくつかあるが、経理スキルを高める為に、難しい関数も含めてたくさんの関数を覚えないといけない、ということはない。

将来、自分の業務を引き継いだ人がすんなりエクセルの構成を理解してスムーズに作業に入っていけるよう、なるべく簡易な関数を組み合わせてシンプルなExcelファイルを作成すべき。

その際には、どうすれば手入力が少なく、シンプルなExcelファイルになるのかを考える「発想力」が重要となる。


[hitorihoumメモ]

経理の仕事をしていますと、大量のエクセルファイルを扱うことになりますが、過去にエクセルマスターみたいな人が作ったエクセルは、その人しか理解出来ないような複雑な関数・マクロ・構成で作成されていて、その人が退職した後、誰もメンテナンスできずに困ったことになる、というのは経理部門あるあるだと思います。

本当に物事の本質を理解していて説明が上手い人は、「難しいことを難しく話す人」ではなく、「難しいことを簡単に説明できる人」だということは良く言われます。

それと同じように、本当のエクセルマスターであれば、自分がいなくなった後でも困らない、分かりやすいシンプルなエクセルにしてこそ、称賛されるべきことかと思いましたね。

私はというと、エクセルは人並みのスキルしかないので、高度な関数を駆使することはそもそも出来ませんが、一からExcelフォームを作成するのであれば、自分しか分からないブラックボックスなExcelを作成しないように気を付けないと思います。




2.当事者意識をもって考える人こそ価値がある(電子書籍P 200)


口で「~すべきだ」というだけなら誰でも出来る仕事で、そんな仕事には価値は無く、あるべき姿に向かってどうやって実現できるかを考えて、行動できる人こそが価値のある人間だと思います。是非とも「~すべきだ」のあとに当事者意識をもって考えて行動できる人材になっていただければと思います。


上記アドバイスはその通りですね。

著者の言う通り、私の経験上でも内部監査部門の人に多い印象がありますが、他のコーポレート部門でも、出来ていないことを指摘したり、正論を振りかざしてやるべき論を振りかざしてくる人がいます。

しかし、今の運用・状況を考えて、どうすれば出来るかを一緒に考えてみましょうという姿勢で来てくれないと、ただの評論家に終わってしまいます。そんな人は「じゃあ、お前がやってみろよ」と相手に言われないにしても思われて、自分では「良い指摘が出来た」と悦に入っていたとしても、いつまでたっても相手から信頼を得られないですし、評価もされないでしょう。

私は今、海外法人のコーポレート責任者という立場にいますが、あるべき論だけ言う評論家になって、ナショナルスタッフの方から煙たがれる存在になっていないかどうか、常に自問自答して仕事に従事していこうと思います。
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「何かあれば裁判で勝てますので、大丈夫です!」は考えが甘い!

今般は、「中国工場トラブル回避術 原因の9割は日本人(小田 淳)」という本を読んでみました。


[内容説明]
元ソニー設計者が伝授!絶対に不良を出さないノウハウ。「突然の不良発生、材料が勝手に変わってた」「はるばる出掛けて、成果物はスケッチ1枚だけ」こんなトラブルを防ぐポイントを徹底解説!

[目次]
第1章 注意すべき日本人と中国人の根本的違い
第2章 トラブルと不良品をなくす3つのアプローチ
第3章 わだかまりをなくす中国人との仕事
第4章 中国企業との関わり方
第5章 100%意思疎通できる話し方
第6章 100%伝える会議とメール
第7章 不良品はここでこうして造られる
第8章 不良原因の見つけ方
第9章 トラブルを起こさないものづくりの進め方
第10章 一目置かれる日本人になる

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私が今、所属している会社は、某業界の専門商社の中国法人で、各国の部品メーカーからモノを買って、セットメーカー等に販売するビジネスを展開しております。

私は営業・品質管理部門ではなく、コーポレート部門に所属しているので、中国工場の方と直接やり取りする機会はありませんが、何かの参考になればと本書を読んでみました。

いくつか本書を読んで心に留まった箇所を個人的な備忘の為に書き留めていこうと思います。



1.委託先だけでなく、再委託先の対応状況も把握して管理すべし

早速ですが、本書で参考になった箇所を抜粋させて頂きます。


組立メーカーが日本にあり中国の部品メーカーから部品を輸入する場合は、日本の組立メーカーの部品保証担当者が中国の部品メーカーの品質を管理します。ところが私の知る範囲では、年に 1回程度中国の部品メーカーを訪問すれば良い方で、問題が発生しない限り全く訪問しない部品保証担当者も多くいます。中国の部品メーカーへの関わりが非常に少ないのです。

1次メーカーから一部の工程が 2次メーカーに外注されていた場合、 2次メーカーの品質管理も重要となります。基本的に、 2次メーカーの品質管理は 1次メーカーの責任範囲ですが、中国の場合は 1次メーカーによる 2次メーカーへの関わりが非常に希薄です。そのため、生産開始前には日本の設計メーカーの設計者が、生産開始後には中国の組立メーカーの部品保証担当者が、その領域( 2次メーカーの品質管理)にまで入り込む必要が生じる場合もあります。

もし 2次メーカーが不良を発生させて最終的に製品不良につながると、そのコストを負担するのは多くの場合、日本の設計メーカーです。たとえ中国の部品メーカーに費用請求ができたとしても、最終的に大きなダメージを受けるのは日本の設計メーカーです。「 2次メーカーを管理するのは 1次メーカーの責任」と放っておくわけにはいかないのです。


上記抜粋の通り、自社の委託先(1次メーカー)が作業工程の一部又は全部を2次メーカーに再委託している場合、2次メーカーを管理する責任は委託先にあります。2次メーカーの対応の悪さに起因する不良発生時は委託先に責任追及することが出来ます。

しかし、そもそも、解決に費用と時間が掛かるトラブルは起きないにこしたことはありません。また、仮に、トラブルに起因して費用が発生して委託先に請求したものの、委託先が請求に応じない場合は、全てのトラブルについて裁判をするわけにもいかないので、結局、自社で一部か全部の費用を負担せざるを得ない(泣き寝入りするしかない)場合もあります。

「委託先がしっかり管理してくれているハズ」、「何かあれば一次メーカーに責任追及出来る」と安易に考えないようにしたいですね。



2.環境負荷物質に関する不含有保証書等の提出(再委託先にも提出させることの検討)

この業界にいますと、納入先の顧客から、自社が納入するモノがRoHSやREACH等の環境基準に適用していることの保証書や、顧客が定めるグリーン調達基準に適合することの保証書を提出するよう要求を受ける場合があります。

この場合、自社では直接的なモノ作りをしない専門商社の当社としては、自社の委託先にも同様の書面の提出を求めることになります。しかし、委託先の会社規模・状況・取引製品等によっては、その再委託先(2次メーカー)にも、委託先を介して提出を求めておかないと、後々、大きなトラブルになる場合があるので注意が必要です。とはいえ、どこまで川上に遡ってエビデンスを取るのかは難しいところですが・・。

中国に限りませんが、委託先が環境負荷物質に関する不含有保証書等を提出してきた場合、あくまで自社(委託先)の対応状況を基にした回答しか記載しておらず、再委託先の対応状況まで調べて回答しているかどうか怪しい場合があります。

特に、言葉や取引慣習に壁がある中国中小メーカーにこのような書面の提出を依頼する場合、依頼側としては、「再委託先の対応状況も含めて回答してくれているハズ」と考えてしまいがちですが、このような希望的観測が裏切られる場合があります。

もし、再委託先の対応状況も含めた回答も意図しているのであれば、その旨、しっかり指示して依頼するか、再委託先にも別途、同様の書面を提出する慎重さが必要ですね。

小さな部品・材料しか販売していないのに、環境基準に違反したモノを納入した結果、顧客がその部品を組み込んで生産した完成品が全てNG品となり、その結果、自社が取引により得られた利益をはるかに超える補償請求を受ける事態となる場合もあります。この手の書面で手を抜くと後で痛い目にあるので、気を付けたいところですね。



3.「何かあれば裁判で勝てますので、大丈夫です!」は考えが甘い!

中国人に限りませんが、同僚と話をしていると、「過去の判例からして、裁判をすれば勝てるので問題ありません!」や「契約書には〇〇と書いてありますが、判例によると、相手方が契約書通りに請求してきても裁判実務では不当として認められませんので、大丈夫です。このまま締結を進めましょう!」というようなことを言う方がいます。

しかし、繰り返しになりますが、トラブルが発生した場合は、そのすべてを裁判に持ち込むわけにはいきません。また、判例と目の前のケースが全く同じ前提条件であるわけでもないので、判例通りに裁判が進むのかも未知数です。

(裁判をするならしてみろ、というような)相手方が判例を意識して交渉に応じてくれるかどうかも分かりません。

裁判はあくまで最後の手段であるという意識を持って、取引交渉、契約審査、トラブル解決にあたって貰いたいですね。



4.契約書をスムーズに取り交わせばそれで全てOKなのか?

自社の取引先に基本契約書や環境負荷物質に関する保証書を提出依頼した際、取り交わしに難色をしてしてくる会社が一定数はいて、それはそれで困りますが、一方で、依頼した契約書や書面にバンバン捺印して直ぐに返送してくる中小規模の委託先もあります。

書面の取り交わしがスムーズに進むこと自体は良いのですが、後者の場合もある意味注意が必要です。何も考えず・ろくに調査もせずに締結・回答しているリスクがあります。

繰り返しになりますが、相手方が契約に違反をした場合、契約責任を追及することは出来ますし、裁判では勝つことが出来るかもしれませんが、トラブルはなるべく避けたいところです。

相手方が契約書の内容をよく理解せずに安易に契約締結しているリスクを考慮して、例えば、面前で契約内容を確認して契約通りに履行してくれることを事前に確認したり、契約通りに履行可能であることを別途確認する慎重さが必要ですね。



[以下、その他本書で参考になった箇所]

(注意事項)
「中国・中国人は〇〇だ」という記載箇所がありますが、当然のことながら、全ての中国の方に当てはまるものではありませんし、そのような決めつけ・固定観点はかえって、判断ミスにつながりますので注意が必要です。

ただ、そのような傾向のある方が一定数いる、ということを認識することは、中国法人や中国の方と仕事をする上で参考になるかと思います。

・指示の無いところ、曖昧なところ、分からないところは、無視されるか、
 勝手に判断される。
 委託元がしっかり要求事項を委託先に提示する必要ある。
 委託先が要求通りに動いてくれない要因は、委託元の指示の仕方にある場合が多い。

・「普通~のハズ」、「~のハズじゃない」は中国では通じない。

・「問題ない」とは、「(全く)問題ない」が正しい意味となるはずだが、
 「気にするな」「まあ大丈夫」という意味合いも含まれている。
  中国の場合は、「問題無ない(没問題)」は限りなく後者の意味に近い形で使われている。

 希望的観測が多く、問題意識レベルが異なる中国の方が言った「没問題」の
 正しい意味の理解が出来ていない日本人に問題がある。

 → これはその通りですね。思い当たる節があります。。
    これは中国人に限らず、相手が日本人の場合にも当てはまりますが、
    相手方が何を根拠に「問題と無い」と言っているのか確認するようにしないと、
    後でその確認不足により足元をすくわれるリスクがあるので気を付けたいところです。
   
    トラブルが起きてから「〇〇さんが問題ないと言っていたので」と言ったところで
    何のエクスキューズにもなりません。
    逆に、「お前は何を確認していたんだ」と社内外で責められてしまう可能性もあります。
    「問題無い」の根拠を自分が腹落ちするまで確認したいものです。

・あうんの呼吸、以心伝心、一を聞いて十を知ってくれることを期待してはいけない。

 (長年取引のある、あうんの呼吸、以心伝心で動いてくれて、
 一を聞いて十を知ってくれる)日本の部品メーカーが暗黙の了解でカバーしてくれていた部分を、
 中国のメーカーも同様に対応してくれるはずと安易に考えることは危ない。

 取引慣習が異なる中国メーカーに委託する際、委託元が明確な指示・仕様を提示して、
 中国メーカーに要求通りの部品を製造させるべし。

・ちょっとでも疑問に感じた点は、納得するまで妥協せずに質問することが大事。
  「そこまで言うなら、まあ大丈夫か」と根負けして妥協してしまうと、
  後で重大な問題に発展する可能性がある。

・依頼相手に仕事を完全に「一任」せずに、確実に仕事をして貰えるよう、
 依頼相手を「コントロール」することが必要。

・質問する場合は、漏れなく曖昧ではない言葉で伝えることで、こちらが期待している
 レベルの内容を回答して貰える。

 「はい」と「いいえ」だけで回答出来る質問の仕方で会話を始めると、
 相手がこちらの意図をよく理解しないで回答してしまい、トラブルとなる。
 誘導尋問のような質問の仕方はダメ。

・誰が作業しても同じ作業結果となるような工程づくり(治具、作業標準書の作成等)が大事。
 中国人作業者の独自の判断が入り込む余地のないようにする。

・誰が測定しても、同じ測定結果となるよう、図面寸法を表記する。

・不良の改善対応として「検査数を増やすから問題ない。
 きちんと検査するので、不良品が出荷されることは無いから問題ない」は安易に受け入れない。

 検査数を増やしても不良品の発生する原因は何も解決されるわけではない。
 検査数を増やす=品質改善ではない。不良を発生させない為の品質改善が大事。

・言葉を理解して貰う責任は日本人側にある。相手の理解不足を嘆いても解決にはならない。

中国法人同士の仲裁合意では、中国外の国で仲裁するとの合意は不可(その2。貴社の雛形契約書、大丈夫ですか?)

1.中国法人同士の仲裁合意では、中国外の国で仲裁するとの合意は不可(その2。貴社の雛形契約書、大丈夫ですか?)

「外国仲裁」「無効」「中国」のキーワードでググってみたら、本ブログに今回と同様のテーマに関する記事を2018年7月19日にもUPしていることに気づきましたが、途中まで書き上げたので気にせずに記載をしますが、中国法人同士の当事者が、契約書に「紛争の解決方法」として海外での仲裁合意(例えば、日本国東京にて日本商事仲裁協会の仲裁規則に基づく仲裁で紛争を解決するとの合意)をしても、実際に紛争が発生して、当該仲裁判決に基づいて海外で仲裁を行い、当該仲裁判決に基づいて中国の裁判所で強制執行の承認を得ようとしても、渉外要素の無い外国仲裁の合意は無効として、執行が承認されませんので注意が必要です。


[以前、2018年7月19日に投降した記事]
中国法人同士の仲裁合意では、中国外の国の仲裁機関は選択不可
http://hitorihoumu.blog47.fc2.com/blog-entry-598.html

※グーグルで調べ物をしていたら、過去の自分のブログ記事に遭遇することがたまにありますが、なかなか感慨深いものがありますね。


日系企業の現地法人が提示してくる雛形契約書では、何か紛争があれば、中国で裁判をするのではなく、本社が所在する日本で法的に解決したいという思いから、「紛争の解決方法」として日本での仲裁合意が定められているケースを見ることがあります。

アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 中川 裕茂弁護士が、2017年7月5日に法律に関する情報サイト「BUSINESS LAWYERS」にて「中国企業との契約における準拠法と紛争解決条項のポイント」という記事で解説されている通り、上記のような合意は中国の裁判実務にて無効と判断されるようです。


「中国企業との契約における準拠法と紛争解決条項のポイント」
https://www.businesslawyers.jp/practices/561

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なお、最近、中国法に詳しい弁護士に確認したところ、最近の判例でも、中国法人同士の外国での仲裁合意を認めなかった最高裁の判例があるようです。判例の文面も貰いましたが、判例のネット記載禁止の法律でもあったら厄介なので掲載は止めておきます。


[最近の最高裁判例]
展讯通信(上海)有限公司与虹软科技股份有限公司计算机软件著作权许可使用合同纠纷管辖权异议上诉案 中华人民共和国最高人民法院 民事裁定书(2021)最高法知民辖终90号


なお、上記弁護士が把握している限りでは、中国法人同士の外国での仲裁合意を認めた事例はこれまでないようですので、自社が上記ケースに該当した際に、自社がその第一号になってやろうと意気込むのは勝手ですが、かなりハードルが高いことは覚悟しましょう。



2.上記合意をしちゃってた場合の対応策

では、自社が中国法人で、紛争が発生した取引先(同じく中国法人)との基本契約書を確認したら、外国仲裁での合意(例えば、日本国東京にて仲裁で解決するとの合意)が記載されていた場合、どうすればいいのでしょうか?

上記弁護士の話では、下記の2点の方法があるようです。


[選択肢1 仲裁合意条項は無視して、中国にて訴訟を提起する]

上記の通り、仲裁を提起して日本での仲裁でせっかく勝訴しても、中国で執行の承認を得られなければ仲裁を提起したい意味は無く、費用と時間を浪費して弁護士が喜ぶだけなので、中国にて訴訟を提起します。

しかし、仲裁合意のある契約書を証拠として提出して訴訟を提起した場合、中国での裁判所の受付段階で、仲裁合意がある為に訴訟は受理出来ないとして門前払いされてしまう可能性が高いようです。

中国人同士の外国仲裁の合意をすること自体は、中国の法律で明確に禁止されておらず、あくまで実務上、上記合意は無効と判断されているようです。

その為、中国の裁判所(人民法院)が訴訟の受理を判断する担当者レベルでは、「中国人同士の外国仲裁の合意は無効だから訴訟を受理する」とまでは積極的に判断してくれず、機械的に、仲裁合意があるから訴訟は受理しないとして却下されてしまう可能性が高いようです。

そこで、訴訟の提起の段階では、仲裁合意の定めのある基本契約書は証拠として提出せず、訴訟が受理されて手続きがある程度進んだ段階で、上記基本契約書を証拠として追加提出しつつ、仲裁合意については無効であることを口頭弁論等の段階で主張していくという作戦です。



[選択肢2 仲裁合意の無効の確認訴訟を提起する]
上記選択肢1の通り、仲裁合意のある基本契約書をあえて証拠として提出せずに訴訟を提起した場合、当然、相手方も仲裁合意のある基本契約書を保有していますので、仲裁合意を盾に、相手方が訴状の受理に対して異議を申し立てる可能性もあります。

特に、相手方には反訴をするような材料は無く、法的に戦ったら自分が敗訴する可能性が高いと考えた場合、時間を稼ぐために、あえて仲裁合意の有効性を主張してくることはありそうです。

その様なことが想定される場合、まずは、「仲裁合意の無効を確認する訴訟」を提起して、当該訴訟で無効が確認でき次第、今度は、本当に解決したいことに関する訴訟を裁判所に提起するという方法です。

この方法の場合、2回の訴訟を行わないといけないことになりますが、仕方が無いですね。。。




3.最後に(あえて問題のある仲裁合意を残す諸刃の刃作戦)

上記のような面倒なことにならないように、今一度、自社の中国現地法人が使用する雛形契約書の「紛争解決方法」に無効となるような条項が無いかどうかを良く確認するとともに、日系の中国法人の取引先から提示される基本契約書に、上記のような問題のある条項が定められていないかどうか、気を付けましょう。

また、過去に締結した契約書に上記のような仲裁合意条項がある場合は、場合によっては、「紛争の解決方法の変更に関する覚書」を締結することも検討が必要かもしれません。

なお、2018年7月19日に本ブログに書いた上記記事にも記載の通り、例えば、自分はモノを売るだけ、秘密情報を受領するだけで、自社が基本契約書やNDAに基づいて相手方を訴えるケースはあまり想定が無く、訴えられるとした場合は自社だけ、という場合は、相手方から提示された基本契約書の問題のある仲裁合意条項を、あえて原文通りに残して、何かあれば上記条項に基づいて時間稼ぎを行うテクニックは考えられますね( ´,_ゝ`)

ただ、紛争が発生した場合の問題解決が長引く火種を残すこともなりますので、ご使用の際は十分ご注意下さい。

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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