移転価格税制:特殊要因分析での「業界共通の要因」や「金額の算定が困難な要因」は調査官が認めてくれない

皆さま、移転価格税制に対する備えはいかがでしょうか?

当社がローカルファイルの作成を依頼している中国における移転価格調査に関するコンサルに聞いたところ、特殊要因分析にて、無理くり、自社の低い利益水準率は妥当というローカルファイルを作成しても、自社だけでなく業界に共通する要因(例えば、為替レートの変動、人件費の高騰、材料コストの高騰等)や金額の測定が困難な要因については、税務調査官も利益率が低い特殊要因として認めてくれない傾向があるようです。

一方、企業自身の偶発的な特定要因、例えば、新工場を設立したので一時的な出費がかさんだというような場合や、一見、共通要因のように見えても、コロナ影響による一時的な利益率の悪化については、妥当な特殊要因として認めて貰える可能性が高いようです。

以前、「移転価格税制対応のキモは「文書作成」ではなく「社内体制の整備」にあり 他」という記事を書きましたが、自社の利益水準は問題無いとのローカルファイルを無理くり作成してもお守り程度にしかならず、あくまで、税務調査官を納得させないといけません。

もし、ローカルファイルの自社の主張が無理筋の内容であると感じる場合は、文面上の良い記載振りに頭を悩ますのではなく、正攻法で、調査官の理解を得らえる社内体制の構築を真剣に議論したいものですね。



[超個人的な備忘メモ:最近読んだ本]
中国の投資・会計・税務Q&A〈第7版〉
デロイト トーマツ 中国サービスグループ (編集)

最近、デロイトのメルマガから、上記書籍が中国で購入出来るとの情報があり、早速購入してみました。
移転価格に関して心に留まる開設がありましたので抜粋させて頂きます。


移転価格調査によって一方の国の関連者が課税所得の更生を受けたとしても、他の国の関連者の課税所得がそれに対応して調整されるわけではありません。そのため、移転価格調整を受けた場合には、企業グループ全体として見た場合に二重課税が発生する可能性があります。

(中略)

移転価格税制はその構成を受けた1社のみの問題にとどまらず、国際的に活動する企業グループ全体の事業戦略にも影響を与えうる問題であるといえます。


先ほど、「正攻法で、調査官の理解を得らえる社内体制の構築を真剣に議論したいものですね」と記載したものの、中国側の利益水準をあえて押さえていたような会社であれば、利益の分配割合を是正すれば済みますが、以下のように

(商流:POの流れ)
日本メーカー ← 日本親会社(A社) ← 中国子会社(B社) ← 中国の販売先

という取引の場合、A社とB社のグループ損益全体が薄利の場合は、利益の調整をしようがありません。

中国側の移転価格リスクを減らすために、中国子会社の利益の配分を大きくした場合、逆に日本親会社の移転価格リスクが増加することになります。

このような場合でも、「日本親会社の利益率も低いんです~」と税務調査で税務調査官に主張したところで、彼らが考えるベンチマーク企業の利益率より低い場合は、杓子定規にみなし課税されるリスクがあります。

移転価格への対応は、言うが易しで、実際問題、グループ全体の移転価格リスクを全て下げる方法というのはなかなか難しい問題ですね。

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中国で統括会社を設ける場合の節税メリット(当局に節税を否認されるリスクに留意)

1.太陽グラントソントンが発行する「中国会計・税務実務ニュースレター」

私が毎週末に巡回しているブログやニュースレターは複数ありますが、その中の一つが、グローバルに会計監査、税務等の各種コンサルティングサービスを提供している太陽グラントソントングループが配信している以下の各種ニュースレターです。

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その中でも、中国に駐在している現在において、「中国会計・税務実務ニュースレター」にはタイムリーな情報提供がされているのでいつも参考にさせて貰っています。

https://www.grantthornton.jp/library/newsletter/chinatax/



2.中国での統括会社の設立目的

(1)節税効果(中国国内への再投資)
そんな「中国会計・税務実務ニュースレター」の最新号(2023年3月7日配信)では、中国での統括会社について特集されており、以前から関心のあるテーマの為、興味深く拝読しました。

統括会社を設ける目的は会社によってそれぞれかと思いますが、そのうちの大きな一つは税務メリットかと思います。

中国に複数の法人を設けている日本親会社は、各法人から配当を受領した場合、配当時に「中国現地で10%の源泉税課税」、「日本側で5%の益金課税」を受けることになります。

しかし、各中国法人の上に中国所在の統括会社を新たに設けて、配当は当該中国の統括会社が受領して日本には配当せずに、中国国内に配当で調達したお金を再投資(M&A等)することで、日本に配当する際の税金発生を回避することが出来ます。

(2)香港に統括会社を設ける選択肢
中国内では再投資はしない会社方針の場合で、また、海外法人における内部統制上の懸念(不正リスクを考慮して海外法人に余剰なお金を置いておきたくない等の事情)や、為替変動に伴う「為替換算調整勘定」の変動の影響をなるべく少なくするべく、日本親会社が中国法人から配当をなるべく回収したいという会社もあるかと思います。

上記のような場合で、仮に、香港に統括会社を新たに設けて、その下に中国本土の法人をぶら下げることが出来た場合、中国本土の法人から直接、配当を回収するのではなく、香港の統括会社を介して、中国本土法人(孫会社)から日本の親会社が配当を回収するとした場合を考えてみましょう。

すると、あら不思議。中国法人から香港の統括会社への配当支払い時に発生する源泉税は5%となり、その後、香港統括会社から日本親会社へ配当する時には源泉税は発生しない為、中国法人から日本法人に直接配当をした場合(10%の源泉税発生)と比べて、5%の節税効果が発生することになります。



3.中国の統括会社の節税効果とスキーム構築時の留意点

統括会社を新たに設ける場合に、日本の親会社が保有している子会社株式を統括会社となる会社に譲渡することになりますが、一定の要件を満たせば、上記譲渡時の譲渡所得に係る課税を繰り延べすることが出来ます。

上記要件は、2014年1月の「中国会計・税務実務ニュースレター」に記載されていますので抜粋させて頂きます。2009年に出された通達ですが今でも有効に適用されており、統括会社について説明される際に必ず登場してくる規定となります。


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この中で一番、気になるのは、「合理的な商業目的を有し、かつ、税額の納付を減少させ免れまたは遅延させることを目的としないこと。」の部分となります。

(実は)節税効果に期待して色々な手続と出費を経て香港に統括会社を設けたところ、「実態としては節税目的による統括会社の設立である」と当局に認定されて、結果的に「5%」ではあく「10%」の源泉税が発生することになった場合、目も当てられないことになります。

ただ、事前に国税当局等と今回の組織再編は節税が目的ではないことを何とか理解して貰い、その際の交渉内容を議事録に残しておいたとしても、将来、当時の窓口・交渉の担当者が変わって、ちゃぶ台返しをされて、当初の節税目的が達成出来なくなるリスクが残ることになります。

真の目的が節税にある場合は、上記リスクを十分に考慮して相当慎重に再編のスキームを実行しないと痛い目にあいますので、気を付けたいものですね。



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41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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