(中国:移転価格税制リスク)全体的に薄利なビジネスであると主張しても税務局には通じない件

1.以前、読んだ実務書をしばらくしてから読み返すことの意味

中国に赴任して約1年半が経ち、少しは中国ビジネス実務の経験値も増加してきました。

そこで、今、以前に読んだ中国関連の実務書を読み返せば、前に読んだときには経験値が無さ過ぎて心に留まらずにスルーしていた箇所が、今になって参考になる箇所もあるのではないかと、中国の会計・税務・法務に関する複数の書籍を改めて読み返しています。

今回、読み返した一冊は以下です。


実例でわかる 中国進出企業の税務・法務リスク対策~法制度から現地の商慣習まで
(PwC税理士法人 簗瀬 正人氏、金誠同達法律事務所 趙 雪巍氏著作)

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以前、読んだのは2020年7月11日で、当時、本書で参考になった箇所等を下記記事にUPしていました。


この度、財務経理部門の責任者になりました(プレイングマネージャーから管理者へ転換する上での心得等)
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-662.html




2.(移転価格税制)全体的に薄利なビジネスであると主張しても税務局には通じない件

今般、改めて本書を読んでみて心に留まったのは、「SAT公表事例を参考にした税務問題」と題して、SAT(State Administration of Taxation:中国国家税務総局)所管の中国税務報板(網連報)で公表された事案を基に著者が作成したという更生の事例です。

個人的には、上記各種事例の内、「Q1 薄利の電子部品部材製造子会社に対する移転価格更生事例」が参考になりました。

早速、上記の一部を抜粋させて頂きます。以下は、上記テーマに関して「背景」、「税務調査の状況」、「交渉」、「更生結果」という順だった項目の内、「交渉」の箇所の抜粋です。


交渉

1 親会社日本企業の主張

日本親会社A社は、当該中国子会社の薄利状況は、顧客の事情、品質管理の困難性、原料高騰および製品寿命に基づく市場および製品の性質に起因するものであると主張しましたが、下記国家税務当局の主張、反論により、親会社の主張は受け入れられませんでした。

2 国家税務当局の主張、反論
国家税務当局は下記事項に基づき、更正処分を主張しました。

(1)低い営業利益率
中国子会社の2009年~2013年の累積営業利益率は1.8%であり、電子部品業界平均的コストプラス利益率5.9%を大きく下回っている。

(2)製造機能のみの企業
中国子会社は開発活動、販売活動にも関与しておらず、当該活動に伴うリスクを負うことは合理的ではなく、製造活動に基づく正当な利益を獲得すべきであり、薄利の状況は妥当ではない。

(以下、省略)


詳しいことは書けませんが、上記はレアなケースではなく、あなたの会社にも発生し得る事例かと思います。

税務局は、税務調査の際に会社側が利益率の低い理由を説明しても、その理由が「それじゃあ利益率が低くても仕方がないね。大変だったね」というような合理的な特殊要因でない限りは、「それはどの会社にも当てはまることなので関係ありません」と一蹴されて、税務局が考えるベンチマーク企業の利益率をベースに追徴課税をしてきます・・orz

調査を受けた中国法人が、海外のグループ会社(例えば日本の親会社)を介したグループ間取引において、様々な要因で上記取引全体が薄利であり、日本の親会社だけが大きな利益を獲得しているわけではないと主張して、エビデンスとなるデータを提出しても、中国の税務局は、当該中国法人全体の利益率、グループ会社向けの利益率が低いだけで、利益率が低すぎるとして追徴してきます。

某大手税務コンサルに聞いた話では、中国の税務局は、明文化された基準は無いものの、製造部品メーカーは概ね5%以上のフルコストマークアップ率を獲得すべきと考えており、5%を下回る利益率で税務調査が終了するケースはほとんどないようです。

一昔前の中国であるならいざ知らず、人件費が高騰して、また、チャイナ・プラスワンによりビジネス環境が厳しくなった今、特に中国における加工ビジネスでは簡単には儲からなくなった今の状況において5%の利益率をキープすることは難しい状況ですが、(税収が減って困っている)税務当局にはそんな中国進出企業の事情は通用しません。

通常の法人税に関する税務調査でも、移転価格税制について調査されることはありますが、時間の都合上、そこまで詳しく調査されることはありません。しかし、移転価格税制に特化した税務調査を受けた場合は相応の時間がありますので、がっつりと踏み込んで調査してきます。

その時に、色々な理由を付けて「当社の利益率は妥当であり、移転価格上も問題は無い」との結論を記載したローカルファイルを毎期、作成していて安心していても、いざ税務調査が入った場合、ローカルファイルに記載していた事情は税務局に一切考慮して貰えず、想定外の追徴を受ける場合があります。

ということで、以前の下記記事にも記載しましたが、「移転価格税制対応のキモは『文書作成』ではなく『社内体制の整備』にあり」であり、そもそも調査対象とならないように、仮に、調査を受けた場合でも十分な反論出来るような体制づくり・準備をしておきたいものですね。

とはいえ、今の厳しい中国のビジネス環境で、税務調査の対象とならないように利益率を一定の%でキープしていくことは言うほど簡単ではないですが・・orz

現在、中国の税務当局は税収が減少してきたこともあり、移転価格調査に力を入れているようです。これまで、中国に会社を設立してから一度も、移転価格税制に特化した税務調査を受けたことの無い会社でも、急に調査開始の通知を受ける可能性が高まっていると思いますので、事前の準備を怠らないようにしたいものですね。

中国における移転価格調査の遡及期間は最大10年で、調査時は過去10年間に遡って調査してきますので、もう手遅れという可能性もありますが・・( ゚д゚)



3.参考として

以下に、移転価格税制に関してUPした記事を関連情報として記載しておきます。


[関連する記事]
移転価格税制:特殊要因分析での「業界共通の要因」や「金額の算定が困難な要因」は調査官が認めてくれない
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-726.html

移転価格税制対応のキモは「文書作成」ではなく「社内体制の整備」にあり 他
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-722.html

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中国の経済補償金(退職金のようなもの)に係る勘違いし易いケースについて

1.中国現地法人の出口戦略と撤退実務(前川 晃廣氏著作)を読んでみました。


  [本書目次]
  第1章 中国現地法人「出口戦略」の基礎知識
       (「出口戦略」を構成する各要素;解散→清算 ほか)
  第2章 中国現地法人の寿命の決め方
       (土地使用権の年限と現法の経営年限;独資企業の手仕舞い方法 ほか)
  第3章 中国M&Aの実態
       (売却先のファインディング;譲渡先候補との交渉 ほか)
  第4章 解散・清算の実務
       (「公司法」における解散原因;清算期間に関する規定 ほか)


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本書は2014年1月出版と10年程度前の少し古い本の為、今の実務・法令と合致していないところもあるかもしれませんが、上記を割り引いて考えることを前提に、何か一つでも得るものがあればと、本書を手に取ってみました。


[補足]
古い実務本を読むと、古い内容をインプットしてしまう可能性があるので、今の法令・実務について全く知見が無い分野で、特に法令改正が頻繁に行われる中国関係の実務本を読む場合、なるべく出版年の新しい本を読みたいものですね。


2.中国の経済補償金(退職金のようなもの)に係る勘違いし易いケースについて

本書のテーマは「出口戦略」ですが、「出口」が社員の解雇を伴う方法の場合、一番気になるのは経済補償金という名の退職金の支払い義務が発生するのか、発生する場合の金額かと思います。

経済補償金について、この名称からくる何となくのイメージから勘違いし易い内容としては以下のケースがあります。
本書には記載の無い項目も含めて、思いついたテーマをいくつか取り上げてみたいと思います。

(1)定年退職する方には経済補償金の支払いは「不要」
   経済補償金は、労働契約の終了または解除の場合に発生する従業員の損失を補償するために
   従業員に支給する金銭をいう(労働契約法46条)。

   予期せず発生した労働契約の終了に伴い発生した損失の補填という性格上、
   定年退職することは前々から分かっていたのであるから、予測していましたよね、
   ということで経済補償金の支払い対象外となっている。

(2)労働者が自己都合で退職する場合、経済補償金の支払いは「不要」
   原則は、会社都合で労働契約を途中解約する場合に支払義務が発生する。

(3)上述の通り、従業員が自己都合で退職する場合、経済補償金を支払いする必要が無い為、
   この潜在的な債務を意識している会社は少なく、実務上も、
   日本のように退職金の引き当てをしている会社は少ない。

   M&Aの際にデューデリジェンス(DD)を行う場合は、選択しようとしている「出口」を実施した場合の
   経済補償金の支払い債務、予期せぬ費用負担が発生するのか要確認。

(4)所定の医療期間中で休職している社員は、会社都合でリストラすることは出来ない。

  → 話は変わりますが、医療期間中は、休職している間でも所定の給与を会社が支払う必要があります。
     従業員は、病院から入手した病気や怪我であることの診断書を会社に提示すれば、
     医療期間と主張することが出来ます。

     (あくまで)聞いた話では、これを悪用して、知り合いの医者から偽の診断書を入手して、
     実は元気なのに休職して給料泥棒するケースがあるようですね・・。
     (あくまで)聞いた話です・・orz

     本当に病気や怪我であればかわいそうですが、医療期間中はリストラ出来ないという
     制度と相まって、嘘の申告により寄生虫のように会社からお金を吸い取ろうとする
     ヤツがいるのは嫌ですね・・。

(5)試用期間の社員について、「労働契約法」第39条に基づき、
   「試用期間中に採用条件に合致していないことが証明された場合」、
   会社側は労働契約を即時解除することが出来、この場合、経済補償金の支払いは「不要」

   → 後々、労働者側が「採用条件に合致していない」という具体的な理由を
      示して欲しいと主張してきて揉めないように、就業規則や他の社内規定に、
     「正社員としての採用条件(不適格事由)」を具体的に定めておきたいものですね。

   → (あくまで)聞いた話では、労働者が自己都合で退職する場合、経済補償金の支払いは
      「不要」ということもあり、上記ルールに基づく即時解除ではなく、
      労働者側からの自己都合退職という体裁で退職処理をする会社もあるようです。

      いずれにしても、後々、労働者ともめないようにエビデンスを残す等、対応を進めたいものですね。



3.本書で参考になった内容と備忘メモ

(1)労働者に30日前に告知をして労働契約を解約した場合、通知してから残りの30日間、
   モチベーションの下がった労働者がまじめに仕事をしてくれない可能性があるので、
   1か月分の給与を余分に支払い、告知日と同日に労働契約を解除する選択肢もある。

(2)解雇時に良く争点となるのは、社会保険や住宅積立金(中国語でいう「公積金」)の未払がある場合、
   その補償を求められるケース

   → 社会保険をしっかり納付出来ているかどうか、解雇通知をする前に確認したいですね。
      解雇をする直前になってルール通りに納付していないことに気づいても遅いので、
      平時から問題無い実務であることを確認するようにしましょう。

(3)後々、労働契約の解消に関する手順をちゃんと踏んでいないと突っ込まれないように、
  法的な義務ではないにしても、労働局や地域の労働組合関係の機関へ事前説明は
  行っておいた方が良い。

  → 以前、当社でも上記ケースに該当した苦い経験が・・。

    弁護士に確認しても法律上の義務は無いとの明確な回答がありましたが、
    労働者側が上記主張を繰り返して交渉に時間を要したことがありました。
    色々と難癖を付けて解決に時間を掛け、経済補償金を吊り上げようとする作戦ですね。。

(4)会社の清算等を実施対応中、中国現地法人でお金が無い場合、
   増資や親子ローンの実施には時間が掛かるので、緊急対応としては、
   取引金額の前渡金として日本から中国に支払うというウルトラCがある。

   前払期間が長いと貨物貿易外貨モニタリングシステムへの登録が必要な場合があるが、
   とりあえず、お金は中国法人に入れることが出来る。

   → 上記方法は実施可能かもしれませんが、後々、不当に中国に送金をしたと
      当局から怒られる可能性があるので、これは最後の手段に取っておきましょう。
     
      中国から中国国外に海外送金することに比べれば、中国国外から中国に送金する方が
      規制は緩いとは一般的に言われていますが、実務と合致していない送金となるので、
      常習的にこれを繰り返すとブラックリストに載る可能性がありそうです・・。

相談を受けた際は、質問者の語る「前提情報」を疑うべし(日中間金型取引の増値税の課税関係を例に)

1.日中間金型取引(金型の物理的な移転は無し)の増値税の課税関係

私が中国法人にてコーポレート部門で仕事をしています。

先日、日中間の金型取引に関して営業担当から以下のような質問を受けました。
結論は以下に記載していますが、もしよろしければ、皆さまも正解は何かを考えてみてください。


[ケース]
(1)商流:注文書の流れ(金型)
   A社(日本法人)→B社(中国法人)→C社(中国法人)

(2)モノの流れ:金型]
  A社向け製品を製造する為に必要な金型をC社が製造・保有して使用
  (中国に金型は留まり、日本への物理的な出荷は無し)
  
  ※A社が金型の所有権を保持し、A社がB社を介してC社に金型を無償賃貸




2.営業部門から受けた質問

 営業担当者:
  「A社とB社間」、「B社とC社間」の取引通貨は「USD(米ドル)」です。

  上記のような商流の場合、「A社とB社間」、「B社とC社間」の取引はともに
  中国の増値税法上、不課税であり税金は発生しないと考えて良いですか?

  外貨取引の場合は、中国では増値税は掛からないと理解しています。

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※ここからシンキングタイムです。
  結論を知りたい方はスクロールしてご覧ください。
  

     ( ・◇・ )?  



     ( ´~` )



     ( ´ ヘ`; ) 



     ( ゚д ゚ )ハッ!



3.結論
  上記ケースには、あえて重要な前提を記載していませんでしたが、今回、取引する金型は
  非保税品(保税区間の取引ではない)の場合、結論は以下の通りとなります。

  (1)上記金型の取引は中国に所在するモノの譲渡となる為、
     課税関係は以下の通りとなる。

    ①B社(中国法人)のA社(日本法人)向け金型取引は「課税取引」
     (モノが中国に留まるので輸出免税対象とはならない)

    ②C社(中国法人)のB社(中国法人)向け金型取引は「課税取引」

 (2)上記の通り、「B社とC社間」は保税取引ではなく課税取引であり、
    中国法人間の取引となる為、取引通貨は「RMB(人民元)」で取引する必要がある。
    (保税区内での取引ではない限り、外貨取引は基本は出来ない)

  → その為、「A社とB社間」、「B社とC社間」の取引通貨はともに
     「USD(米ドル)」という質問者の「前提条件」がそもそも間違えていたことになる。




4.補足
  日本で財務経理部門にいた際も感じましたが、消費税、付加価値税の課税要件を、居住者、非居住者で考えてしまう人がいます。

各国の付加価値税に関する法令により異なるかとは思いますが、少なくとも日本と中国では、役務提供取引ではなく、モノの取引においては、あくまでモノが国内で消費されるのか、国外で消費されるのか(モノの移動が伴うのか)で考える必要があります。

上記事例でいうと、金型の最終的な発注者(需要者)は日本法人ですが、あくまで金型が中国に留まる以上は、上記2つの取引ともに、増値税(中国の付加価値税)の課税取引となります。



5.言いたいこと(相談を受けた際は前提を疑うべし)

前置きが長くなりましたが、本記事で言いたかったことは、相談を受けた際は、質問者が提供してきた「前提情報」をまずは疑った方が良いということです。

私が上記質問を受けた際、「(前提)「A社とB社間」、「B社とC社間」の取引通貨は「USD(米ドル)」」と言っているので、「B社とC社間」はおそらく保税区内の取引なのだろう。

ということは、質問者の言う免税取引という結論も合ってそうだなと、短絡的に考えて「ご理解の通りですね」と回答してしまいそうになりました。

しかし、よくよく商流図を描いて取引内容を確認すると、上記前提がそもそも間違えていたことが分かりました。取引関係の相談を受けた場合は、質問者が発する情報が「本当か?」と疑いの気持ちを忘れずに、必ず商流図を描いてカミ(注文書等)、モノ、カネがどのように動くのかを明確にすべきですね。

なお、課税取引の場合、注文を受ける前に、「販売先から受領する金額」にも「自社が支払う金額」にも増値税を加算した上で採算が取れるのか確認して、見積書の授受を行う必要があります。

見積書の授受をして受注した後に上記課税要件の誤認識に気づいた場合、最悪の場合、後で交渉しても販売先に増値税分の支払い金額の上乗せを了承して貰えず、結果的に逆ザヤでの取引をせざるをえなくなってしまいます。

コーポレート部門としては、営業担当者の理解不足を嘆くだけで終いにするのではなく、(金型取引の頻度が少ない中で)会社として教育不足であったことを自覚して、金型取引に関する研修をしたり、品目マスタや取引先マスタをERP(基幹システム)に営業部門が登録する際に、課税・不課税の間違いチェックが入るような仕組みにする等、再発防止に向けたアクションを取りたいと思いました。



6.金型が日本に留まるケースの場合の結論

私がまだ日本で財務経理部門に所属していた2021年年9月に、上記ケースの商流とは日中の当事者が反対の以下のようなケースについて質問を受けたことがあり、日本の消費税の課税関係に関する記事を書いたことがありました。

興味のある方はご笑覧ください。

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また、今回の上記ケースの結論に異議・意見等がある方はご指摘頂けば幸いです。。。


投稿日:2021年9月4日
(Q&A)日本に所在する金型を非居住者(海外法人)に販売する場合の消費税の課税関係

https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-694.html

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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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