書籍:「攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書」を読んで

1.「攻めの法務」とは?

今般は、「攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書(渡部友一郎 (著), 大舞キリコ (イラスト), 星井博文 (その他), BUSINESS LAWYERS (その他))」という本を読んでみました。

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「攻めの法務」については色々なところで議論がされていますが、その言葉の定義については確立されたものはなく、人によって解釈が異なります。

その為、「攻めの法務が重要」という言葉を聞いた法務関係の方の中には、その言葉から来るシンプルなイメージから、グレーな案件であってもグレーなまま、イケイケどんどんで進めることを後押しするのが「攻めの法務」と認識する方がいるかもしれません。

私の所属会社だけではないと思いますが、多くの営業担当は、契約書の審査・締結については、とっとと早く終わらせて早く取引に進みたいと考えている人が多いかと思います。そんな営業担当にとっては、少しリスクの大きい契約書・ビジネスでも直ぐにGOサインを出してくれる法務の方が、営業受けはいいかもしれません。

また、営業部門からストッパー扱いされることを恐れるあまり、言いたいことも言えない法務部門になっているケースもあるかもしれません。

その様な状況の中、「攻めの法務が重要」という便利な言葉に出会った結果、この言葉を自己正当化の道具・免罪符して、営業担当に喜ばれるからと、法務部門がどんどん契約書の審査をザルにした場合、将来、契約書に関するトラブルに発展して思わぬしっぺ返しに合い、結果的には、営業担当にも迷惑を掛ける結果になるかもしれません。

これでは、本来、あるべき法務組織の役割を果たしているとはいえないでしょう。
法務の目的は、契約書の社内審査を何とか通して「締結」させるが役割・ゴールではないですからね。



2.あるべき「攻めの法務」の姿

一方、本書の著者が考える「攻めの法務」の意味は、本書の下記目次を見れば分かる通り、よく考えもせずに「リスクがあります」とだけ言って事業部門にNOを突き付けて、安易にビジネスをストップさせるのではなく、「リスク」のないビジネスは無いのですから、事業部門が適切・妥当にリスクテイク出来るように、「十分な情報に基づく意思決定」を法的にサポートすることが「攻めの法務」と主張されています。



[本書目次] ※アマゾンの本書の紹介ページより抜粋させて頂きました。

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https://www.amazon.co.jp/%E6%94%BB%E3%82%81%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%8B%99-%E6%88%90%E9%95%B7%E3%82%92%E5%8F%B6%E3%81%88%E3%82%8B-%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8-%E6%B8%A1%E9%83%A8%E5%8F%8B%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4817848650


更に、「攻めの法務」の役割を果たす為には、リスクの「特定」と「分析」をして終いにするのではなく、次の検討段階に進む為に、「リスク発生の蓋然性」×「リスク発生時のインパクトの大きさ」を考慮した詳細な分析を行いつつ、「(取れるリスクかどうかの)評価」と「対応(リスク低減策)」までも一緒に事業部門・営業部門と伴走して考えていく必要があると解説しています。

以前、「知財部という仕事(友利昴氏著作)」という本を読んだ備忘録を書いた下記記事に記載しましたが、「で、俺はどうすればいいの?やっていいの?ダメなの?」と言われないように、最終的なビジネスジャッジは事業部門・営業部門かもしれませんが、法的な分析結果だけ営業部門に投げてつけて、後は「営業判断ですね」とだけ言い捨てる法務部門にはならないようにしたいものですね。


相談者から「で、オレはこれやっていい?ダメなの?」と言われないようにするために ※「知財部という仕事」(友利昴氏著作)という本を読んで

https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-673.html


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補給用部品の長期間の供給義務への対応(書籍:自動車部品メーカー取引の法律実務を読んで)

1.書籍「自動車部品メーカー取引の法律実務」を読んで(again)

先般、「自動車部品メーカー取引の法律実務」(和田 圭介 (著, 編集), 杉谷 聡 (著, 編集))という本を読んで、と題して、上記書籍を読んで個人的に心に留まった「ジャスト・イン・タイム」、顧客から提示される発注内示(フォーキャスト)に対する責任等について、個人的な見解を記載させて頂きました。

上記テーマ以外にもう一点、当該書籍を読んでいて参考になった箇所がありましたので、個人的な備忘と誰かの参考のために以下に書き留めておこうと思います。

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2.補給用部品の長期間の供給義務への対応

本書(P128)に補給用部品に関するQ&Aが記載されていて参考になりましたので、Qの部分のみを抜粋させて頂きます。


3.8 補給用部品

Q 量産品の生産が終了していても、1次サプライヤーから補給用部品を長期間要求され、大きな負担になっています。補給用部品の供給義務はどのようにして決まるのでしょうか。明示の合意なく、補給用部品の生産を中止したり、余剰在庫を破棄したりすると、当社は孫杯賠償を請求されてしまうのでしょうか。


上記Qに対する詳細なAは本書をご覧頂きたいのですが、著者は上記への回答として、契約書に明示的な補給用部品の供給義務の定めがなければ、基本的には上記義務は無いことになるが、商法第1条2項を挙げて、「実際の取引の経緯や業界の商慣習などから契約当事者の合理的な意思を解釈し、契約内容が補充されることがあります。自動車業界において補給用部品の供給が不要であることは通常考えられません。よって、その特性上、量産品の生産終了から一定期間、供給義務があると認定される可能性があると考えられます。」と解説しています。


商法 第1条(趣旨等)

1.商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めが
  あるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2.商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、
  商慣習がないときは、民法 (明治29年法律第89号)の定めるところによる。


なお、商法第1項2項の商慣習を踏まえた解釈によらずとも、通常、自動車関係の部品メーカー(販売先)と新規取引を開始する際の必須条件として顧客から提示される取引基本契約書には、量産品の取引終了後、10年や20年等、かなりの長期間、補給用部品を供給する義務が定められていることが多く、当該契約書を締結出来ないと取引が出来ないことから、取引の開始前に、このような条文の受け入れ可否に悩む部品・部材のサプライヤーは多いかと思います。

私は某商材の専門商社に所属しておりますが、補給用部品の供給義務に限りませんが、「上記のような厳しい契約条件を提示してくる自動車部品メーカー」と、「上記条件なんて一切受け入れたくないという部品・部材メーカー」の間に挟まれていつも苦労しています・・orz

法務がしっかりしている会社では、自動車部品メーカーから提示される契約条件の受け入れ可否を慎重に検討した結果、どうしても受け入れられずに、新規取引・新規口座開設をやむなくあきらめるケースもあるかと思います。

一方、(聞いたところによると)中国ローカルの専門商社では、顧客が提示してくる厳しい契約書を原文通りにバンバン締結して新規ビジネスを獲得している現地商社もあるようです。どういうリスク管理をしているのか直接、聞いてみたいものです・・orz

我々のような商流に介在する専門商社は、当社がモノ作りをするわけではないこともあり、当社が単独で過大なリスクを負担することないよう、原則通り、「Back to Back」となるよう契約交渉をしていくしか生きる道はないですね。



3.EOL(End of life)に対応することに伴う負担の検討

補給用部品の供給方法としては下記の2つがあります。


[供給方法]
(1)量産品を生産する際と同様の生産設備、治具・金型を確保しておいて、
  補給用部品の注文が来る都度、補給用部品を小ロットで生産・販売するケース

(2)長期の在庫保管中に経年劣化がしないような商材の場合、
  顧客が必要と思われる所要数量を一括で作りだめして在庫として確保しておき、
  注文を受けた都度、在庫を納入するケース



上記(1)の場合、いつ来るか分からない顧客からの補給用部品の注文に応じる為に、従来の生産体制を確保しておかないといけないので、サプライヤー側の負担は大きくなります。

また、量産時に比べて生産数量が大きく減少して、納入製品1個当たりの生産コストが増加することから、補給用部品の販売単価を量産品よりは高くして損失が出ないようにする必要があります。

一方、上記(2)の場合は、在庫が長期で残存するリスクや、在庫保管の費用負担という問題があります。

上記(1)と(2)のどちらの方法もしっかりと事前の取り決めをしていかないと、大きなリスクを負担することになります。

なお、私の所属会社の業界的には、取引が終了することを「EOL(End of Life)」と呼ぶことがありますが、「EOL(End of Life)」は下記2つがございます。


[EOLのケース]
①顧客の量産取引が終了して保守対応に移行するケース(上述のケース)
②サプライヤーが従来の部材・部品の販売を終了するケース


上記②のケースの場合、サプライヤーが従来の部品・部材を生産終了するので、従来取りの生産・販売は不可となることから、4M変更の手間を考えてこれまで通りの製品を継続供給して欲しいと強く希望する顧客に対する供給責任を果たす為には、上述(2)の方法である「必要な在庫を一括確保して供給していく」必要があります。

このような一括調達を当社の業界では「Last Buy(ラストバイ)」と呼ぶことがあります。10数年前に当社に入社して初めて、ベテランの男性営業担当から「ラストバイ」という言葉を聞いた際、独特のおじさん用語なのかと思いましたが、業界では一般的な用語のようですorz

上記②でEOLとなった場合、将来、必要な在庫を当社のサプライヤーが自分で確保・保管してくれていれば良いのですが、そのような資金負担は出来ないという場合、専門商社である当社が在庫保管をする場合もあります。



4.EOLリスクへの対応(EOLチェックシートの活用)

そんなEOL時において、在庫確保により対応をする必要がある場合、長期で過大なリスクを不用意に受け入れることの無いよう、私の所属会社では、EOLチェックシートと題したシートを作成して、下記項目について問題無いかをチェックしてからラストバイの最終発注を行うルールにしています。

さすがにチェックシートを本記事に添付することは出来ないので、チェック項目だけ、誰かの参考の為に下記に挙げておきたいと思います。


[(参考)EOLチェックシートの確認項目]
1.極力、ラストバイ時には当社で長期間(3か月超)、在庫を抱えない

2.当社が一括で在庫確保せざるを得ない場合、下記項目を確認する
 (1)当社が一括確保する在庫を顧客が全数買取る保証(契約)があるか?
    上記保証がある場合、買い取り期限は明確か?

 (2)顧客の買取保証(契約)が無い場合、残存在庫の処分費用
    (本体価格+廃棄費用)も考慮してラストバイ品の販売単価を決めているか?

 (3)当社が上記在庫品に関する品質保証責任を負担するか?
    上記責任が生じる場合、当社が顧客に対して保証責任を負担する間、
    当社のサプライヤーからも同様の保証を得られるか?
  
    → 通常のサプライヤーとの基本契約書では、サプライヤーが当社に
      製品を引き渡しした後、1年程度の品質保証を行う条件になっています。

      一方、当社と得意先との契約条件も同様、当社が顧客に製品を
      引き渡しした後、1年程度の品質保証を行う条件になっています。

      もし、ライトバイで一括調達した在庫品も上記条件が適用された場合、
      在庫期間が長引けば長引くほど、サプライヤーの保証期間が途中で切れて
      当社が顧客に単独で保証責任を負担する期間が生じてしまいます。

      その為、当社では、ラストバイで在庫確保する場合、当社が
      在庫保管はするものの、在庫品に関する一切の品質保証責任を
      免責するよう顧客と合意するか、保証期間の穴が生じないよう、
      当社とサプライヤーとの間で、ラストバイ品に関して独自の
      保証期間を合意してからラストバイ品の発注をするようにしています。

 (4)一括調達する製品は経年劣化しないか?
    接着剤等のように使用期限が決まっている製品ではないか?

 (5)在庫保管する際に、温度湿度等の特別な条件は無いか?
    特別な条件が必要な場合、当該保管方法を考慮した保管費用を販売単価に
    反映させているか?

 (6)在庫保管期間に対応した在庫金利相当額を販売単価に上乗せしているか?
    (在庫確保する為に外部から資金調達はしないとしても、在庫確保に伴い
    運転資金を使用する為、在庫金利を請求する)

(7)上記チェック項目の確認結果を記載したシートと、
   在庫の買取保証に関する書面(覚書)をコーポレートの
   法務部門に送付して確認依頼を受けてOK出て発注する

  → ラストバイは当社の業界ではよくあることなので、全てのラストバイについて
    上記対応とすると大変なので、ある金額基準を超えるラストバイの在庫確保を
    する場合は、上記対応を行うルールにしています。



 以上、誰かの参考になればと思い、記載してみました。

他にもこんな条件を確認した方がいいんじゃない?という項目があれば
  コメント欄でもメッセージでもいいのでご教示ください。



5.顧客からの要望により顧客所有の製品を預かり品として保管する場合がある・・

EOLとなる際、やむなく当社で在庫を保管する場合がありますが、顧客から、今後必要な在庫は顧客が一括発注してお金も支払うけど、在庫は当社倉庫で保管しておき、納入指示がある都度、納入して欲しいという要望を受ける場合があります。

この場合、当社の在庫残存リスクは無いですし、お金も先に貰えるのでいいかなと考えてしまいそうになります。しかし、下記を考慮して、顧客からの在庫の預かり(簿外在庫の保管)の依頼は極力、受けないようにしています。

もし、どうしても在庫の預かりが必要がある場合は、預かり期間は短期として、引き取り期限を契約書で明確に合意するようにしています。


 [預かり品を受け入れない理由]
 (1)長期で在庫を預かるよう依頼されるケースが多く、在庫保管費用が
    想定以上に発生する場合がある。

    また、第三者の所有物を保管している場合、自社が加入している
    在庫保管中の貨物保険が適用されない場合がある為、
    預かり品に対して別途保険に加入した場合は、当該費用が追加で発生する。

    当社の在庫保管方法に問題があった等としてモメルと厄介ということもあり。

    → どうしても顧客在庫を預からなといけない場合は、
      倉庫の保管費用・保険費用を請求するようにする。

 (2)「当社所有の在庫」と「顧客からの預かり品」を同じ倉庫で保管する場合、
    両社が混在してしまう可能性がある為、分けて保管するとなると
    管理が煩雑となる。

    顧客から上記預かり品の棚卸を依頼される場合、その対応負荷も発生する。

 (3)顧客から在庫を一時的に預かって欲しいと依頼してきた目的が
    「棚卸除外」にある場合、当社が不正会計に加担することにある。
    在庫の保管依頼の目的が妥当かどうかを十分確認が必要。



一見、良さそうな条件にも裏がある場合がある為、上記に限らず、安易に受け入れないようにしましょう。

以上、長々と書いてしまいましたが、本書を読んで頭に浮かんだことを備忘として書いてみました。

推敲するのも疲れたので、まだ誤字脱字や改行のズレがあるかと思いますが、これで筆をおきます。


[今の気持ち]

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すず、僕はもう疲れたよ。なんだかとても眠いんだ。

すず=愛犬




P.S.
本日より奥さんと子供たちが先行して日本に一時帰国していないので、明日は一人でスーパー銭湯でも行ってこようかな( ´ー`)


書籍:「自動車部品メーカー取引の法律実務」を読んで

1.書籍「自動車部品メーカー取引の法律実務」を読んで

当社は某商材の専門商社に所属しており、当社では、自動車セットメーカー(トヨタ、日産等)に直接、モノを販売することはありませんが、Tier 1、Tier 2と言われるような、自動車セットメーカーの川上に位置する自動車部品メーカーと取引するケースは多々あります。

その為、仕事の参考になればと、今般は、「自動車部品メーカー取引の法律実務」(和田 圭介 (著, 編集), 杉谷 聡 (著, 編集))という本を読んでみました。


[目次]
1.自動車産業の特色
2.自動車部品サプライヤーの関連法令
3.受注(顧客との関係)
4.開発
5.調達
6.保証・責任

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2.「ジャスト・イン・タイム」は下請けいじめ?

(注)本記事の内容は私自身の見解であり、必ずしも所属する企業や組織の立場、意見を代表するものではありません。

本書は上記目次で構成されており、「1.自動車産業の特色」の箇所に、トヨタ生産方式である「ジャスト・イン・タイム」が解説されていましたので、その箇所を抜粋させて頂きます。


2.トヨタ生産方式 3

 (中略)

「ジャスト・イン・タイム」とは、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ造る(運ぶ)」ことが基本的な考え方です。この時に、何がどれだけ必要かを表す道具として「かんばん」が用いられます。部品サプライヤーを含めた前工程と一体になって、生産の停滞やムダのない「モノと情報の流れを構築」しています。

トヨタ生産方式では、人件費を削減でき、在庫量を最小限に抑えることができますが、平準化生産ができないと導入が難しく、在庫の欠品により生産ラインが停止するおそれがあります。また、近時、災害などのトラブルで生産ラインが止まることが起きているため、在庫量を拡大することや生産ラインの復旧を急ぐ体制を整備することでこれらのデメリットを押さえるようにしているようです。

-------------------------------------------

3 トヨタ自動車株式会社「トヨタ生産方式」
https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/


上記のトヨタ生産方式の説明は、トヨタ自動車の上記HPの内容を参照の上、記載されています。

上記HPに記載されている「ジャスト・イン・タイム」の紹介箇所を抜粋させて頂きます。


ジャスト・イン・タイム
-生産性を向上-
-必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る!-

生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、良いものだけを効率良く造る。
お客様にご注文いただいたクルマを、より早くお届けするために、次の内容により最も短い時間で効率的に造ります。

1.お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
2.組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
3.組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
4.前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。


上記はトヨタ目線で書かれていることもあり、上記を見ると、「ジャスト・イン・タイム」在庫や人件費も削減出来てすばらしいことのように思われますが、本当にそうなのでしょうか。

以前、下記記事にも書きましたが、これは既に色々な方面で言われていることではありますが、「ジャスト・イン・タイム」方式は、「トヨタ」にとっては「人件費を削減でき、在庫量を最小限に抑えること」が出来る素晴らしい方式かもしれませんが、それは、川上に位置する部品メーカー、部材メーカーの犠牲、負担の上に成り立っている場合もあると思います。全当事者にとって「WIN-WIN」な方式ではないのです。


2014年9月2日:公開
VMI契約の「瑕疵担保期間の起算日」、「取引終了時の在庫の取り扱い」に注意
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-447.html


トヨタが部品・部材メーカーの生産リードタイムを無視して出荷指示を出してくることもある為、部品・部材メーカーは安全在庫と言われる在庫を発注内示(フォーキャスト)に基づいて常に確保しておく必要があります。

仮に、客先に指示通りに納入出来ない場合、完成品メーカーの生産ラインが止まると莫大な賠償金を請求される可能性がありますので、発注内示を無視することは出来ません。

当然、在庫を確保すれば、在庫を調達・生産しておくためにカネが社外に出ていきますし、在庫を保管する為の費用も掛かります。トヨタにしてみれば、上記在庫負担も含めて部品・部材メーカーに利益を確保してあげているんだ、ということかもしれませんが、この発注内示(フォーキャスト)があてにならないとしたらどうでしょうか?



3.発注内示(フォーキャスト)はあくまで参考情報でしかない件

本書「3.受注(顧客との関係)」に、発注内示(フォーキャスト)に関するQ&Aが記載されており、一次サプライヤーから発注内示を受けて、二次サプライヤーが納品の為の準備をしていたものの、急な減産となった場合や発注内示が取り消された場合、損賠賠償は可能かとの質問に対する回答が記載されていました。

その回答部分に、発注内示の「定義」と「法的拘束力」について解説がありましたので、その箇所を抜粋させて頂きます。


[解説]
1.発注内示とは

「発注内示」は、法律上の定義があるわけではなく、どのような意味で「発注内示」という言葉が使われているかは、業界や取引当事者間によって異なります。大きく分類すると、以下の三つに分けられると思います。


①生産計画よりも具体的であるものの、あくまで発注の予定を伝えるもの
②確実とまではいえないものの発注が見込まれるため、予定納期に間に合うように製造・販売の準備をするよう指示するもの
③発注が確実であるものの、内容の変更や取消しの可能性があるため「内示」という形式をとっているにすぎないと評価されるもの)(実質的に発注)


2 発注内示の法的拘束力

(中略)

個別の状況によりますが、通常は、発注内示の後に、正式な発注が合って個別契約が成立すると考えられるので、上記①と②の場合は、準備行為をしていたとしても、契約が成立していると評価できる可能性は低く、発注内示に法的拘束力までは認められないと考えます。

(中略)

自動車業界における「発注内示」は、「生産計画」と比べて格段に重い意味を有し、「発注内示」を契機に、量産できる体制を整え予定納期に納品できるよう製造に着手することが多く、②の趣旨であることが比較的多いと考えられます。



著者は、上記解説の後、「3 発注内示の内容変更や取消しにより発生した損害・損失」という題目を設けて、上記②のケースでは、契約の成立は主張できないものの、「契約締結上の過失」に基づき、一次サプライヤーが急に発注内示を取り消した結果、二次サプライヤが既に納入準備に入っていた在庫・部材がムダになって損害が発生した場合、「損害賠償が認められる可能性が相当程度以上あると考えます」と記載されています。

ただ、立場の弱い下請けサプライヤーは、今後の取引関係を考えると、川下の部品メーカーに対して損害賠償を正当に請求することが出来ず、泣き寝入りするケースは多々あるのではないでしょうか。最高裁判例上は認められているとしても、取引停止覚悟で賠償請求をする弱小サプライヤーはいないでしょう。

「ジャスト・イン・タイム」の名の元に、「発注内示」という曖昧なものをベースにして川上のサプライヤーに在庫を確保させておいて、急な生産調整が発生した場合、発注内示には法的拘束力は無いとして一方的に引き取りを拒否して、それまでの取引による利益を大きく超える損害を発生させているケースがあるとしたら、それは、下請けいじめ以外のなにものでもないですね。

全ての部品メーカーとの取引が下請けいじめに該当するとまでは言いませんが、経験上、下請けいじめに該当するケースは存在していると思います。



4.下請法上、「ジャスト・イン・タイム」はギリギリOKになっている件

下請法の対応を行う者にとってバイブル的な存在である、公正取引委員会・中小企業庁が発行している「下請取引適正化推進講習会テキスト」では、「ジャスト・イン・タイム」を以下の通りに解説した上で、各種条件を遵守することを条件として、法令上、OKにしています。


[上記テキスト該当箇所の抜粋]
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https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.html


上記該条件の中に、「エ 納入回数及び1回当たりの納入数量を適正にし,かつ,無理な納入日(時間)の指示は行わないよう注意する」という条件があります。

「注意をしていれば、結果的に無理な指示をしてしまった場合はそれはOKなのか」等、色々と考えさせられる書き振りで、全ての条件が本当に遵守されているのかは謎ですが、公正取引委員会・中小企業庁も、日本を代表するトヨタを考慮して、ギリギリOKという見解を出したのでしょう。



5.下請法を回避する為に商社を商流に介在させる件

以前、下記記事にも書きましたが、大手部品・部材メーカーは、上記を含めた下請法の各種制約を回避することを目的として、私が所属しているような、下請法上の「下請事業者」には該当しない商社を取引商流に介在させることで、完成品セットメーカーからの無理な依頼に何とか対応しているところはあると思います。


2018年12月6日
(法務担当の方でも勘違いし易い)下請法に関する留意点(計9項目)
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-614.html


商社の機能一つとして、在庫管理が挙げられますが、かといって、商社としても在庫リスクを全て丸カブリすることは出来ません。

そこで、在庫は確保するものの、「発注内示に基づいて在庫を確保後、〇か月が経過後も当該在庫が残存していた場合は顧客が当該在庫を買い取る」というような覚書を締結して、在庫残存リスクに備えるようにしています。

上記覚書があっても期限通りに買取してくれないケースはありますが、「契約締結上の過失」という頼りない概念に頼ることなく、リスクの軽減に向けた契約書面はしっかり取り交わして取引したいと考えています。

また、そんな(偉そうなことを言っている)当社が、当社の川上に立つサプライヤーに対して、下請けいじめをしていないか、いじめが連鎖していないかどうかも十分注意していきたいと思います。

支払期日の規制(60日以内)は遵守している会社は多いとしても、量産終了後も金型を下請事業者に預けるケースの遵守事項等、細かい下請法の規定に違反していないかどうか留意したいものですね。



6.最後に

本書では他にも参考になった、個人的に心に留まった箇所(補給部品の確保義務等)がありましたので、次回、当該箇所を取り上げさせて頂こうと思います。

(中国)三方貿易時における外貨送金規制

1.中国・外貨管理マニュアルQ&A(2022年改訂版)を読んで

今般は、「過去に読んだ中国関連本を読み返してみよう(自主)キャンペーン」の一環として、中国・外貨管理マニュアルQ&A(2022年改訂版)(水野コンサルタンシーグループ代表 水野 真澄)を読んでみました。

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前回、2022年3月20日に読んだ時に参考になった箇所は、下記記事にUPしていました。
ちょうど、中国に赴任して直後に本書を読んでいました。


海外駐在員の役割とは?、上司は部下から常に見られていることを意識すべき(特に異動時)
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-707.html


今回、再度、本書を読み直してみて一番心にとまったのは、上記記事にも記載していた三方貿易に関する送金規制の箇所でした。その箇所を今回は分かり易いように図を追加した上で、少し加筆して書き留めておこうと思います。


・2012年8月1日から、外貨管理上は、保税区域企業・一般区企業を問わず、三国間取引が出来るようになった。但し、三国間取引(転口貿易)の営業許可は、原則として保税区域の企業でないと取得できない。

貨物が中国に到着する前に、洋上で売買が行われる下記のような場合で、中国企業(A社)から中国外企業(C社)に対する支払い時には、中国企業(B社)から中国企業(A社)への入金記録と中国企業(B社)の輸入通関単原本の提示が求められる場合がある為、先受け・後払い条件となる。

三方貿易の場合、輸入通関単は一つしか発行されない関係で、B社からA社に対する入金よりも前に、A社が輸入通関単を使ってC社に外貨送金した場合、B社はA社に支払が出来なくなる。

→上記は、既に失効している保税監督管理区域外貨管理弁法操作規定(実務運用上、決済時の信憑書類などの判定に際して参考とされている規定)に基づく要求。

→上記規定により、中国企業(B)が支払を遅延すると、中国企業(A)も中国外企業に対する支払いを遅延せざるを得ない。

  [商流:POの流れ]
  中国企業(B社)→ 中国企業(A社)→ 中国外企業(C社)

  [物流:モノの流れ]
  中国外企業(C社) → 中国企業(B社)

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なお、私が日本の財務経理部門に在籍していたころ、三方貿易において、上記図で言えば、客先であるB社が納入製品の不良等を理由にA社(当社の中国グループ会社)にお金の支払いをしてこないので、A社(中国法人グループ会社)としては銀行の外貨管理ルールに基づいてC社(日本親会社)にお金を支払えないから、支払を待って欲しいと言われるケースがあり、本書を読む前から上記ルールの存在は知っておりましたが、前回、本書を読んで詳しい内容を把握出来て勉強になり、上記記事に備忘メモとして書き留めていました。



2.三方貿易による突発的な大口入金遅延問題(経験者は語るorz)

上記三方貿易について、私が中国に赴任してきてから遭遇した厄介な事例を誰かの参考までにご紹介します。再度、下記図をベースに説明しますが、客先や社内の人に身バレして怒られないように、サプライヤー(C社)所在の国名は実際と変更しています。

(事態)
1.当社はA社の立場で、大口優良日系取引先(B社)と三方貿易をしていたが、急にB社からのUSDの入金遅延が発生

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2.B社に理由を問い合わせしたところ、これまでは中国所在の某邦銀から当社に送金手配をしてきたが、手数料の関係で某中国系ローカル大手銀行から送金するよう、送金元銀行を切り替えたところ、銀行内の送金審査で、B社が当社(A社)に支払うよりも先に、当社(A社)がC社に支払していることが分かり、上記ルールに基づいて銀行の審査が下りずに送金が出来ないとの回答あり。

(銀行等への確認結果)
上記事態を取引している某メガ邦銀担当者に確認したところ、上記に記載した三方貿易の外貨支払のルール(B社 → A社 → C社の順番で支払わないといけない)は、2020年の外貨管理局の中国の全銀行向けに配信された下記通達(銀行からの質疑に対する応答:Q&A)により緩和されており、各銀行の判断により、上記順番に関係なく支払をしても可能という運用に変更されているとのこと。

[ポイント]
上記の支払い順番ルールが無くなったわけではなく、各銀行の判断で支払して良いという運用になったというのがポイント


「关于涉及海关特殊监管区域业务报关电子信息核验的问答(2020年10月22日)」
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某メガ邦銀担当者によると、中国に所在するみずほ銀行、三菱UFJ等の邦銀であれば、支払う順番に関係なく、例えば、B社からの入金の前でもA社はC社に送金が可能となっているとのこと。

一方で、中国ローカル企業の中には、上記ルールを厳格に適用している銀行もあり、今回、客先(B社)が送金元として切り替えた某ローカル銀行は上記ルールを厳格に適用した結果、今回の事態になったのではないかとの回答あり。

(結末)
1.通関書類等、色々な書類を銀行に提出して、何とか1ヵ月遅れで入金して貰えたが、大口USDの取引だったこともあり、上記未入金状態が数か月続いた場合は資金繰りに大きな影響が出るところだった。

2.客先(B社)と交渉した結果、当社の状況を考慮して頂き、送金遅延後の送金は、送金元の銀行を邦銀に戻して貰ったので、以後は上記を理由とした送金遅延は発生していない。

(備考)
手数料の関係で送金元の銀行をどこにするのかは客先が判断すべき事項であり、当社の都合が通じない可能性もあったわけで、仮に、上記B社がローカル銀行での送金にこだわった場合、当社としては下記対応を判断する必要があった。


[選択肢①:支払条件を変更]
自社(A社)からC社への支払いサイトを伸ばして、「B社が自社(A社)に支払う前」に、「自社(A社)がC社に支払う」事態が発生しないよう、支払条件を変更する。

上記方法を採用する場合、サプライヤー(C社)の資金繰りが悪化する為、C社の了解が得られない場合がある。

本ケースでは、C社は当社のグループ会社であったので、支払サイトの変更はある程度は融通が利くものの、大口のUSD取引ということと、C社の資金繰りにも余裕があるわけではないので、仮に、1ヵ月、支払サイトを伸ばした場合、C社では銀行からの借入が必要となり銀行金利負担が発生することになる。

[選択肢②:三方貿易を止める]
三方貿易をやめて、当社(A社)が輸入者となる。

この場合、サプライヤー(C社)からB社への直送が出来なくなり、物流経費と納入リードタイムが増加することになる。

この場合、客先(B社)への納期遵守を考えると、当社(A社)にて安全在庫を一時的に確保する必要が生じることになり、保管費用、在庫に係る資金負担等、色々とデメリットが大きい。

どちらの選択肢を採用するのかは、「銀行からの借入金利負担の増加」と「三方貿易を止めた場合の物流経費の増加」を天秤にかけて判断する必要があった。

また、最悪の事態として、上記追加の費用負担が発生した場合は採算が合わずに取引が無くなる可能性もあった。


(結論)
ということで、上記ケースは客先(B社)の理解を得て事なきを得ましたが、実務は小説よりも奇なりということで、中国では、色々な実務慣行が存在して、スムーズに物事が進まないことが多いものだなというケースを事例を紹介させて頂きました。

(混乱し易い)日本の消費税と中国の増値税制度の税金還付制度の相違

1.「詳解 新・中国増値税の実務」を読み返して

本書は2017年5月出版で、法令・ルール改正が頻繁な中国の税務界隈において、既に内容が古くなっている可能性のある本ではあります。しかし、その辺は割り引いて、前回記事にも記載した「過去に読んだ中国関連本を読み返してみようキャンペーン」の一環として、何か一つでも新たな気づきが得られればと、久しぶりに本書を読み返してみました。


詳解 新・中国増値税の実務 単行本(2017/5/17)
片岡 伴維 (著), 板谷 圭一

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本書(P3~)には、「中国の増値税と日本の消費税の比較」という箇所で、中国の増値税と日本の消費税の「類似点」と「相違点」をまとめた表が記載されていて、参考になります。

本書に、「中国の増値税と日本の増値税は似て非なるがゆえ、日系企業にとって混乱しやすいポイントが多く存在する。」と記載されているとおり、日本の消費税制度の頭で対応しようするとまさに混乱しますので、増値税に関する細かい論点の勉強に入る前に、このような類似点と相違点を押さえておくことは必要ですね。



2.(混乱し易い)日本の消費税と中国の増値税制度の税金還付制度の相違

中国に赴任して個人的に一番混乱したのは、日本の場合は、輸出、国内取引関係無く、「販売時に受領する消費税」と「仕入時に支払う増値税」を引き算して、控除しきれない仕入税額がある場合は還付申請が出来ますが、一方の中国の場合は、そうでもない点です。

会社の形態により適用される計算方式にもよりますが、当社のような「外貿企業」には「免除・還付」方式が適用されて、国内販売と対外貿易による輸出売上の両方が発生する場合、両者を区分して記帳・管理しなければならず、輸出貨物等の仕入にかかる増値税額を国内販売による売り上げに係る増値税額から控除してはならない、というルールが適用されます。

一方、メーカー等の製造業には「免除・控除・還付」方式が適用されて、「免除・還付」方式とは異なり、輸出売上以外の売上(国内売上)に関する増値税から、輸出貨物に関する仕入増値税も控除可能となる税金計算となります。

これに、中国では各種保税区に関する細かいルールも加わりますので、中国に赴任中に中国増値税制度の完全に理解するのは不可能ではないかと思われます・・。

ただ、私はコーポレート部門全般の責任者として赴任しているので、細かい税務処理は財務部門のナショナルスタッフや顧問の税理士法人に任せるとしても、最新の増値税に関する本は度々読み返して、「教科書的にはこうなる」というのは頭に叩き込みつつ、増値税制度の概要・骨子はしっかり理解した上で、スタッフや税理士と税務に関する会話できるようになりたいとは思います。

部下のスタッフに

「あぁ、この人は何も分かっていないんだな(・∀・)ニヤニヤ」

と思われているとしたらイヤですからね。その為にも日々勉強したいと思います。

しかし、日本・中国に限らず、会計や税務は、勉強したら勉強するだけ実務に活きてくるのが実感出来て、楽しいですね♪

ただ、中国にいると図書館が使えないので、本関連の出費が激しいですが・・orz
その辺は海外赴任手当で賄うことにします・・。
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Author:hitorihoumu
41歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

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