書籍:「自動車部品メーカー取引の法律実務」を読んで

1.書籍「自動車部品メーカー取引の法律実務」を読んで

当社は某商材の専門商社に所属しており、当社では、自動車セットメーカー(トヨタ、日産等)に直接、モノを販売することはありませんが、Tier 1、Tier 2と言われるような、自動車セットメーカーの川上に位置する自動車部品メーカーと取引するケースは多々あります。

その為、仕事の参考になればと、今般は、「自動車部品メーカー取引の法律実務」(和田 圭介 (著, 編集), 杉谷 聡 (著, 編集))という本を読んでみました。


[目次]
1.自動車産業の特色
2.自動車部品サプライヤーの関連法令
3.受注(顧客との関係)
4.開発
5.調達
6.保証・責任

jidousya_convert_20230715115625.jpg




2.「ジャスト・イン・タイム」は下請けいじめ?

(注)本記事の内容は私自身の見解であり、必ずしも所属する企業や組織の立場、意見を代表するものではありません。

本書は上記目次で構成されており、「1.自動車産業の特色」の箇所に、トヨタ生産方式である「ジャスト・イン・タイム」が解説されていましたので、その箇所を抜粋させて頂きます。


2.トヨタ生産方式 3

 (中略)

「ジャスト・イン・タイム」とは、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ造る(運ぶ)」ことが基本的な考え方です。この時に、何がどれだけ必要かを表す道具として「かんばん」が用いられます。部品サプライヤーを含めた前工程と一体になって、生産の停滞やムダのない「モノと情報の流れを構築」しています。

トヨタ生産方式では、人件費を削減でき、在庫量を最小限に抑えることができますが、平準化生産ができないと導入が難しく、在庫の欠品により生産ラインが停止するおそれがあります。また、近時、災害などのトラブルで生産ラインが止まることが起きているため、在庫量を拡大することや生産ラインの復旧を急ぐ体制を整備することでこれらのデメリットを押さえるようにしているようです。

-------------------------------------------

3 トヨタ自動車株式会社「トヨタ生産方式」
https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/


上記のトヨタ生産方式の説明は、トヨタ自動車の上記HPの内容を参照の上、記載されています。

上記HPに記載されている「ジャスト・イン・タイム」の紹介箇所を抜粋させて頂きます。


ジャスト・イン・タイム
-生産性を向上-
-必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る!-

生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、良いものだけを効率良く造る。
お客様にご注文いただいたクルマを、より早くお届けするために、次の内容により最も短い時間で効率的に造ります。

1.お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
2.組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
3.組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
4.前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。


上記はトヨタ目線で書かれていることもあり、上記を見ると、「ジャスト・イン・タイム」在庫や人件費も削減出来てすばらしいことのように思われますが、本当にそうなのでしょうか。

以前、下記記事にも書きましたが、これは既に色々な方面で言われていることではありますが、「ジャスト・イン・タイム」方式は、「トヨタ」にとっては「人件費を削減でき、在庫量を最小限に抑えること」が出来る素晴らしい方式かもしれませんが、それは、川上に位置する部品メーカー、部材メーカーの犠牲、負担の上に成り立っている場合もあると思います。全当事者にとって「WIN-WIN」な方式ではないのです。


2014年9月2日:公開
VMI契約の「瑕疵担保期間の起算日」、「取引終了時の在庫の取り扱い」に注意
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-447.html


トヨタが部品・部材メーカーの生産リードタイムを無視して出荷指示を出してくることもある為、部品・部材メーカーは安全在庫と言われる在庫を発注内示(フォーキャスト)に基づいて常に確保しておく必要があります。

仮に、客先に指示通りに納入出来ない場合、完成品メーカーの生産ラインが止まると莫大な賠償金を請求される可能性がありますので、発注内示を無視することは出来ません。

当然、在庫を確保すれば、在庫を調達・生産しておくためにカネが社外に出ていきますし、在庫を保管する為の費用も掛かります。トヨタにしてみれば、上記在庫負担も含めて部品・部材メーカーに利益を確保してあげているんだ、ということかもしれませんが、この発注内示(フォーキャスト)があてにならないとしたらどうでしょうか?



3.発注内示(フォーキャスト)はあくまで参考情報でしかない件

本書「3.受注(顧客との関係)」に、発注内示(フォーキャスト)に関するQ&Aが記載されており、一次サプライヤーから発注内示を受けて、二次サプライヤーが納品の為の準備をしていたものの、急な減産となった場合や発注内示が取り消された場合、損賠賠償は可能かとの質問に対する回答が記載されていました。

その回答部分に、発注内示の「定義」と「法的拘束力」について解説がありましたので、その箇所を抜粋させて頂きます。


[解説]
1.発注内示とは

「発注内示」は、法律上の定義があるわけではなく、どのような意味で「発注内示」という言葉が使われているかは、業界や取引当事者間によって異なります。大きく分類すると、以下の三つに分けられると思います。


①生産計画よりも具体的であるものの、あくまで発注の予定を伝えるもの
②確実とまではいえないものの発注が見込まれるため、予定納期に間に合うように製造・販売の準備をするよう指示するもの
③発注が確実であるものの、内容の変更や取消しの可能性があるため「内示」という形式をとっているにすぎないと評価されるもの)(実質的に発注)


2 発注内示の法的拘束力

(中略)

個別の状況によりますが、通常は、発注内示の後に、正式な発注が合って個別契約が成立すると考えられるので、上記①と②の場合は、準備行為をしていたとしても、契約が成立していると評価できる可能性は低く、発注内示に法的拘束力までは認められないと考えます。

(中略)

自動車業界における「発注内示」は、「生産計画」と比べて格段に重い意味を有し、「発注内示」を契機に、量産できる体制を整え予定納期に納品できるよう製造に着手することが多く、②の趣旨であることが比較的多いと考えられます。



著者は、上記解説の後、「3 発注内示の内容変更や取消しにより発生した損害・損失」という題目を設けて、上記②のケースでは、契約の成立は主張できないものの、「契約締結上の過失」に基づき、一次サプライヤーが急に発注内示を取り消した結果、二次サプライヤが既に納入準備に入っていた在庫・部材がムダになって損害が発生した場合、「損害賠償が認められる可能性が相当程度以上あると考えます」と記載されています。

ただ、立場の弱い下請けサプライヤーは、今後の取引関係を考えると、川下の部品メーカーに対して損害賠償を正当に請求することが出来ず、泣き寝入りするケースは多々あるのではないでしょうか。最高裁判例上は認められているとしても、取引停止覚悟で賠償請求をする弱小サプライヤーはいないでしょう。

「ジャスト・イン・タイム」の名の元に、「発注内示」という曖昧なものをベースにして川上のサプライヤーに在庫を確保させておいて、急な生産調整が発生した場合、発注内示には法的拘束力は無いとして一方的に引き取りを拒否して、それまでの取引による利益を大きく超える損害を発生させているケースがあるとしたら、それは、下請けいじめ以外のなにものでもないですね。

全ての部品メーカーとの取引が下請けいじめに該当するとまでは言いませんが、経験上、下請けいじめに該当するケースは存在していると思います。



4.下請法上、「ジャスト・イン・タイム」はギリギリOKになっている件

下請法の対応を行う者にとってバイブル的な存在である、公正取引委員会・中小企業庁が発行している「下請取引適正化推進講習会テキスト」では、「ジャスト・イン・タイム」を以下の通りに解説した上で、各種条件を遵守することを条件として、法令上、OKにしています。


[上記テキスト該当箇所の抜粋]
sitauke_convert_20230715115656.png

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.html


上記該条件の中に、「エ 納入回数及び1回当たりの納入数量を適正にし,かつ,無理な納入日(時間)の指示は行わないよう注意する」という条件があります。

「注意をしていれば、結果的に無理な指示をしてしまった場合はそれはOKなのか」等、色々と考えさせられる書き振りで、全ての条件が本当に遵守されているのかは謎ですが、公正取引委員会・中小企業庁も、日本を代表するトヨタを考慮して、ギリギリOKという見解を出したのでしょう。



5.下請法を回避する為に商社を商流に介在させる件

以前、下記記事にも書きましたが、大手部品・部材メーカーは、上記を含めた下請法の各種制約を回避することを目的として、私が所属しているような、下請法上の「下請事業者」には該当しない商社を取引商流に介在させることで、完成品セットメーカーからの無理な依頼に何とか対応しているところはあると思います。


2018年12月6日
(法務担当の方でも勘違いし易い)下請法に関する留意点(計9項目)
https://hitorihoumu.blog.fc2.com/blog-entry-614.html


商社の機能一つとして、在庫管理が挙げられますが、かといって、商社としても在庫リスクを全て丸カブリすることは出来ません。

そこで、在庫は確保するものの、「発注内示に基づいて在庫を確保後、〇か月が経過後も当該在庫が残存していた場合は顧客が当該在庫を買い取る」というような覚書を締結して、在庫残存リスクに備えるようにしています。

上記覚書があっても期限通りに買取してくれないケースはありますが、「契約締結上の過失」という頼りない概念に頼ることなく、リスクの軽減に向けた契約書面はしっかり取り交わして取引したいと考えています。

また、そんな(偉そうなことを言っている)当社が、当社の川上に立つサプライヤーに対して、下請けいじめをしていないか、いじめが連鎖していないかどうかも十分注意していきたいと思います。

支払期日の規制(60日以内)は遵守している会社は多いとしても、量産終了後も金型を下請事業者に預けるケースの遵守事項等、細かい下請法の規定に違反していないかどうか留意したいものですね。



6.最後に

本書では他にも参考になった、個人的に心に留まった箇所(補給部品の確保義務等)がありましたので、次回、当該箇所を取り上げさせて頂こうと思います。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

カレンダー
01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -
プロフィール

hitorihoumu

Author:hitorihoumu
42歳 男 二児(+柴犬)の父
主に週末にブログを更新する予定です。
今、中国(上海)で駐在員生活をしています。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセスカウンター
検索フォーム
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文: